FISPA便り「日本クリエイション大賞で覚醒する文化財」

  日本ファッション協会(JFA、馬場彰理事長)主催の日本クリエイション大賞の2017年度の表彰式が先日、都内のホテルで開かれました。毎回、すばらしい案件や人が受章する同賞。「人間っていいな」と思わされ、受章内容はもちろん、受賞者による受賞後のショートスピーチも心を打つものが多く、豊かな気持ちで会場を後にするのが通例になっています。
 

 同賞は、より豊かな生活文化の創造を目指すJFAの中核事業で、製品、技術、地域振興など分野を問わず、時代を切り拓いたプロジェクトや人物を表彰するものです。今回は、宇宙ビジネス、AI、ロボット、医療技術などから優れた案件が121件寄せられました。厳正な審査の結果、受賞案件は、実に絶妙な結果になりました。宇宙、医療野の最先端の技術と文化財保護への貢献という対照的なクリエーションワークが選ばれたのです。
 

 大賞の「世界初の民間商用小型衛星を開発」、医療技術革新賞の「優れた止血能力を持つマイクロ波手術用エネルギーデバイスを製品化」は人類に貢献するものですが、興味深いのは「文化財修復会社を再建し、観光立国日本を説く」デービッド・アトキンソン氏と氏が社長を務める㈱小西美術工藝社に日本文化貢献賞が贈られたことです。
 

 イギリス生まれのアトキンソン氏は、かつてゴールドマン・サックスの著名アナリストでしたが、42歳で退職後、縁あって1636年(寛永13年)創業の小西美術工藝社の社長に就任。危機的な経営状態だった同社を「当り前のことを当たり前にやって」見事に立て直しました。非正規で高齢化していた職人全員を正社員にし、若者も採用したそうです。「若い人たちが、毎年のように『結婚しました』、『子供が生まれました』と報告に来てくれる」そうです。
 

 アトキンソン氏が取り組んでいるのは、春日大社、日光東照宮陽明門などの文化財修復だけではありません。観光立国を目指す日本の未来に向けて「文化財をしまい込むのではなく、観光業の重要な資源として位置付け、活用すること」を提唱しているのです。そのため、「新・観光立国論」などの著作本を著わすほか、二条城特別顧問として、その活用策を提言しています。
 

 「文化財の修復に欠かせない世界一薄い和紙の開発」で日本の巧みな技章を受章した高知県日高村のひだか和紙㈲の鎮西寛旨社長は「欧州の文化財を守るエンジニア」と評されているそうです。
 

 長い歴史文化を育んできた日本は、「文化資源大国」と言えるでしょう。そう気づかせてくれたアトキンソン氏。文化財が眠りから醒め、世界の人々の心を豊かにすることが期待されます。

               
(聖生清重)