FISPA便り「嫁の一言」
開催中の平昌冬季五輪での日本勢の活躍は、この時期の寒さを吹き飛ばす勢いですが、特に、スピードスケートを筆頭に女性アスリートの躍動が目立ちます。金・銀・銅を獲得した高木美帆選手はその代表でしょう。テレビニュースで何度も、はじけるような笑顔を見ましたが、そのたびに新たな感動が沸き上がってきました。
女性活躍で想起したことがあります。毛織物メーカー(機屋)と長繊維産地の産元商社の女性のことです。二人とも経営者の奥さん、つまり嫁さんです。その嫁さんのまっとうな疑問が毛織物メーカーを救い、産地の職人さんに喜ばれている、という話です。
前者の機屋さん。嫁いできた女性は、家業の実態に大きな疑問を抱きました。客観的に見ても、夫は誠実な人柄で腕の良い職人です。寝食を忘れるほど仕事に打ち込んでいます。しかし、取引先からの要求は工賃ダウンや無理な納期の厳守ばかりで、苦労が報われる収入は得られていません。理不尽だと思った嫁さんは「(再生産可能な利益が出ない)要求は断ったら」と強く迫ったそうです。
妻から強く言われた夫は、思い切って理不尽な要求を断るようにしました。その結果はどうだったか。無理な要求に追われていた時に比べて仕事量は減らず、経営状況は好転したとのことです。
後者の産元商社の女将さんの場合はこうです。産元商社に嫁いで目にした光景は、信じられないものだったと言います。すばらしい織物、それは自分たちの生計を支えてくれる大事な商品でもあるのですが、それを作っている職人さんは、玄関でなく勝手口から出入りしていたからです。ずいぶん前の体験ですが、その嫁さんは「機会がきたら、何とか職人さんの役に立ちたい」との思いを抱き続けてきたそうです。
時を経て、その嫁さんは、新会社を立ち上げ、3人の職人さんと組んで、創造的で繊細、かつ美しいスカーフを販売するようにしたのです。販路開拓は楽ではありませんが、今でもテキスタイル合同展示会に継続的に出展し、熱心に売り込んでいます。職人さんへの敬意から始めた新規事業は、セレクトショップや通販ルートでの販売を軌道に乗せるまでに成長しています。
2人の女性の「(こんな現実は)おかしい!」との疑問と理不尽さへの憤り。それが、ビジネスモデルを改革し、新ビジネスを創出した、と言えるのではないでしょうか。
(聖生清重)