FISPA便り「日本の美」を具現化する「matohu(まとう)」への期待

 東京コレクションで人気のファッションブランド「matohu(まとう)」(堀畑裕之・関口真希子)初の直営店が去る7月15日、東京・表参道からちょっと入った閑静な場所にオープンしました。メーンアイテムの「長着」で日本の美意識と職人の技を独創的に表現する「matohu(まとう)」。10年春夏までの10シーズンにわたって追求した「慶長の美」に続いて、現在は「日本の眼」をテーマにしたコレクションを創作しています。 

 実は、「matohu(まとう)」は、筆者にとって長年、もやもやしていたものの回答そのものなのです。どういうことかと言いますと「日本ファッションとは何か」という問いの答えが「matohu(まとう)」だと思うからです。「東京発 日本ファッションウイーク」の目的である「日本ファッションの世界への発信」は、日本ファッション産業の予てからの課題ですが、いざ、「日本ファッションとは何か」と問われた時、自身では回答を出すことができず、外部からも納得できる説明に出合ったことはありませんでした。「matohu(まとう)」は、この難問を解決してくれました。 

 日本ファッションには、日本の美の要素が入っていてしかるべきでしょう。ならば、日本の美とは何か。故・多田富雄東大名誉教授は「美しい日本のルーツ」は「自然の中に無数の神をもつ“アミニズム”、俳句・茶道・能などに見る“象徴力”、滅びゆくものに対する共感・人の世の無常・弱者への慈悲などの“もののあわれ”、これらを技術的に包み込む“匠の技”」の4つだと言っています。この多田さんの説を信奉するようになって以降、この4要素を具現化したコレクションとの出合いを楽しみにしてきました。そうして出合ったブランドが、満を持して直営店を開設したのです。

 「matohu(まとう)」のデザインデュオは、デザインワークに関して、「地域や国のオリジン(起源)に対して敬意を払う」ことの重要性を指摘しています。多田さんの4要素への敬意が「matohu(まとう)」に表現されていると言えるでしょう。小さいながらも中庭とクスノキの巨樹のある直営店の開設を機に、日本ファッションを代表するブランドに成長するよう願っています。

(聖生清重)