FISPA便り「目指せ、ファッションタウン」
自民党総裁選の政策論争のキーワードのひとつは「地方創生」でしょう。この国家的課題への処方箋とも言える理論が、実は、20年以上前にもありました。通産省(現経産省)が支援し、一般財団法人日本ファッション協会が窓口になって、全国の20数都市・地域で展開した「ファッションタウン」構想とその実践です。
ファッションタウン構想は、地域資源を活用して、ものづくりとまちづくりを一体的に進めようというものです。特に、繊維産地を形成していた地域は、新興国の追い上げで、主力産業である繊維産業の国際競争力が低下し、その再生に迫られていました。そうした背景もあって、「ファッションタウン」を目指す同構想は、今日で言うところの「地方創生」につながると期待されていました。
それから、20年以上が経過した今、改めて、地方創生のひとつのあり方として「ファッションタウン」が注目されてしかるべきではないでしょうか。そう思ったのは、日本ファッション協会のメルマガに桐生商工会議所専務理事の石原雄二さんが「ファッションタウン桐生推進協議会の22年」と題して桐生ファッションタウンの経緯と思いを書いているからです。
ファッションタウンを推進するため、手をあげた全国20数都市・地域が巡回して「ファッションタウン・サミット」を開催、実践事例を報告したり、今後の進め方を議論しました。そのサミットの第1回が開かれたのが桐生です。桐生は「ファッションタウンわがまち風景賞による優れた景観・建造物の顕彰」、「商店街1店1作家運動による中心市街地のにぎわい創出」など、多彩な事業を継続しています。22年目の現在は、地域資源を活用した「桐生マフラー」のブランド化に乗り出しています。
地方創生のヒントがちりばめられているファッションタウン構想。その内容は石原さんのレポートに記されていますが、当時、繊維記者としてファッションタウンを取材した経験のある筆者が想起することは、(石原さんも書いていますが)同構想の生みの親の一人である故・藤原肇さんの「ものづくり、まちづくり、くらしづくりを連動させながら実現させる実践運動だ」との指摘です。藤原さんは通産大臣の諮問機関である繊維工業審議会の繊維ビジョンの策定に専門家として深くかかわった方です。
ファッションタウン構想による地方創生の進め方。「まちづくりは、運動」。それはファッションタウン推進の道半ばで病に斃れた藤原さんの“遺言”ですが、地方創生のポイントでもあると思います。
(聖生清重)