FISPA便り「アートのチカラ活用も、あり」

  今月上旬に東京・五反田で行われたクリエーション色の強いファッションの合同展示物販商談会「ルームスエクスペリエンス」を見てきました。最近の同展は、モノからコトへの消費傾向の変化を受けてか、会場全体が「お祭り」のような雰囲気で、展示品はアクセサリーや雑貨が目立つのが特徴ですが、いつものように時代の最先端の要素を盛り込んでいました。
 

  東京山手線の五反田駅を降り立つと、「ROOMS」と記した旗を持った若者に、会場である五反田TOCビル行きの専用バスに案内されます。乗り込むと各座席には大きなゴーグルが置いてありました。それを膝に乗せるとバスガイドさんが装着の仕方を説明してくれました。

  ゴーグルはVR(仮想現実)の体験でした。目の前の景色は何やら、原色が幾何学的に動くものでしたが、実は「あっ」と言う間にTOCビルに着いてしまったのです。今見た景色は何だったのか、と振り返る間もない、わずかな時間だったとは言え、それなりに貴重な体験でした。

  会場を一回りして印象に残ったことは、アート(美術品)でした。創作陶器、イラストのような絵画が、目立つところに展示されていました。ファッション関連の展示商談会ではめずらしいのではないでしょうか。

  ルームス展を主催するアッシュ・ペー・フランスは、かねてアートの市場を拡大しようと地道に努めていますから、アートを取り上げたことに違和感はありません。クリエーションを前面に出しているルームス展にとって、クリエーションの成果物である焼物や絵画はなじみがあるといってよいでしょう。

  アートを見て、ふと、思ったことは、ファッション業界で日常的に使われる言葉の「ワクワク・ドキドキ」のことでした。アパレル製品を中心にしたファッション関連商品の価値の源泉は、消費者のワクワク・ドキドキ感にある、と言われます。「ワクワク・ドキドキ」したファッション。最近は、あまり耳にしなくなったように思います。

  今という時代における「ワクワク・ドキドキ」するようなファッションとは、いったいどんなものなのか。デザイナーは、時には美術館に足を運んでアートをじっくりと鑑賞し、アート作品に負けない創造的な服をデザインしてもらいたいものだと思います。

  そんな感想をつぶやきながら、帰路は徒歩で駅に向かいました。

(聖生清重)