FISPA便り「アートのある暮らし」
先週、都内で開かれたファッションの合同展示会「ルームスエクスペリエンス」に行ってきました。クリエーション色が強いイベントであり、かつ、今という時代の雰囲気を感じさせてくれる展示会です。
38回目の今回は、プロ向けの展示に加え、一般客も楽しめるように工夫していました。資料には「ファッションとキュレーションのイベント」と同展のコンセプトが記されてありましたが、会場に入ると真っ先に目に飛び込んできたのが装飾的な文字で書かれた「装飾美術館」の看板。
美術館に足を踏み入れたことを感じさせる空間にはエディ・ドゥビアン(フランス)というアーティストの人物を中心とした絵画が、本物の美術館のように展示されていました。「トンボの羽のある少年」は、墨絵のようなタッチで描かれていて、立っている少年の目が描かれておらず、何を見ているのか判然としないので、その分、想像力をかきたてられます。左手をポケットに入れているのも何やら暗示的だと思いました。
装飾美術館に続く部屋には、ルームス展を主催するアッシュ・ペー・フランス(東京)が世界中から集めてきたコレクションが並んでいました。料理を盛り付ける皿、花瓶、壁飾り、室内を引き立てる布、椅子、テーブルといったインテリア・生活雑貨は、いずれも装飾的なもので、「装飾美術館」のテーマにマッチしていたと思います。
同社の代表取締役で「装飾美術館」館長の村松孝尚さんは、図録のような本でこう記しています。「20世紀後半から21世紀初頭にかけて目覚ましい発展を遂げたテクノロジーは人々の暮らしを大きく変えました。一方、そんな中で私たちが見出してきた価値は、テクノロジーとは全く別の場所にあります。優れたクリエーターが創り出すクリエーションは、人々の暮らしを豊かにし、そこに新しい文化が生まれます」。
同感です。日々の暮らしを豊かにする。その際、アートは重要な役割を果たすでしょう。例えば、一枚の絵。値段の高安ではなく、気に入った一枚なら、見るたびに確かな感動を与えてくれるでしょう。気に入った一枚のお皿。毎日の食事を豊かなものにしてくれると思います。
アートの本質は、感動にあると思います。アートを見ることで人は感動する。感動は、そして生きる力になるのだと思います。季節は早春の気配が日増しに強まってきました。関東地方でも庭の福寿草が黄色い花を咲かせるようなりました。
小さな花に感動する心があること。それも「アートのある暮らし」なのではないでしょうか。
(聖生清重)