FISPA便り「オンワードの新たな旅立ち」
ファッションビジネスにとって不可欠な挑戦は、消費者の感性に不断に働き続けることではないか。どんな時代にあっても、人々は衣服(ファッション)を通して豊かな気持ちを味わいたいと思う。それに食やアートが合わさってより多彩な豊かさを体感できれば、なお一層豊かな気持ちになれる。そんな人びとの根源的な欲求に応えることこそがファッションビジネスの本質なのだろう。
新元号「令和」が発表された翌2日、東京・代官山にオンワードホールディングスがオープンさせた新業態施設「KASHIYAMA DAIKANYAMA」を見学して、そんな感想を抱きました。
資料によると、新たな施設はファッション、食、デザイン、アートが重なり五感を刺激する代官山の新たな“丘”。自然光が差し込む明るい館内の地下1階から5階までの全6フロアには、ゆったりとくつろげるカフェ、カルチャーやアートを発信するギャラリー、新しいキュレーション型コンセプトショップ、上質な味覚体験を提供するレストラン、クラシカルなバーが備えられています。
“丘”をコンセプトにしたコの字型のハコが重なる建物は、世界的に活躍する佐藤オオキ氏が率いるデザインオフィスと空間デザインオフィスの監修によるもので、各階層の屋上にあたるテラスを登ってゆくと、自然の丘を散策するかのように楽しむことができます。館内外を飾る植栽はガーデンデザイナー、長濱香代子氏の手により200種類に及んでいます。
飲食コンテンツは、「SUGALABO」代表の須賀洋介氏、ファッション&カルチャーは「オープニングセレモニー」創立者でKENZOクリエィティブディレクターのキャロル・リム氏とウンベルトレオン氏がそれぞれ監修しました。
オンワードが“丘”を開設した狙いについて同社は「90年以上にわたり日本のファッション産業を牽引してきた当社は、若手クリエーターの発掘と育成、国内外の産地との協業を行うほか、環境・社会貢献活動、リゾート施設や飲食の運営など、幅広く事業を手掛けてきた。そうしたこれまでの歩みを発展させる新たな一歩」と位置づけています。
プロジェクトリーダーの廣内武代表取締役会長は「やすらぎを楽しむ自然と調和した空間を創造した。皆様に潤いと彩りを提供する憩いの場にしたい」と話しています。
日本のアパレル産業の状況は、日本勢が得意の中間ゾーンの低迷が続いています。話題もAIなどビジネス手段に偏っているきらいがあり、肝心の「ファッションの本質」に迫る挑戦が少ないのが現実です。それだけに消費者の五感を刺激する“丘”への投資は、ファッションビジネスの本質への投資で、オンワードのファッション企業としての新たな旅立ち宣言と言えるのではないでしょうか。
(聖生清重)