FISPA便り「デジタル革命とリバウンド・メンタリティー」
ファッション産業人材育成機構(IFI)が運営している会員制の繊維ファッション研究会。人材育成を使命とするIFIの中核事業のひとつで、年に10回、旬のテーマにそって、専門家が最新の情報に基づいて変化する「今」を解説、それへの対応策を提言しています。第82回の先夜は、旧知の㈱アパレルウェブ社長の千金楽健司さんが講師でした。
テーマは「ここが変だよ!ファッション産業」。千金楽さんは、「いま、目の前にある危機」、「小売企業が取り組むべき4つの経営課題」、「海外事例から学ぶ“これから”の店舗」の順で話を進めました。講演のすべてを限られた文字数で再現することは不可能ですので、以下は、個人的な感想ですが、内容は刺激的なものでした。
千金楽さんが指摘したポイントは、「デジタル革命」が急速に進行しているのに、ほとんどのファッション企業はその進行の先を正確に予測しておらず、対応できていない、との警鐘だったと思います。
イノベーション(革新)が及ぼす変化で千金楽さんがあげたのが、ニューヨークの写真。1900年、ニューヨークの街には馬車があふれていたのにT型フォードが登場した1908年からわずか5年後の1913年にはT型フォードがあふれている。その写真はイノベーションによる変化のスピードの速さと大きさを端的に説明してくれます。そうした変化が、今、デジタルによって起こっているというわけです。例えば「小売がなくなりつつある」と。
そこで小売企業が取り組むべき経営課題について「1つは、デジタルを企業の根幹にすること。サブスクリプション、シェアリングにも対応すること。2つは、グローバル。インバウンド対応だけでなく越境EC、海外SNSなどで海外進出に対応すること。3つは、ブランディング。4つは、コラボレーション」の4点を指摘しましたが、なかでも「わざわざ行く意味、価値があるショップ」のキーワードは「共感」と「体験」との説明には納得できました。
同時に、「デジタルのイノベーションに対応するのか」あるいは「少なくなる残存者利益を熾烈に奪い合うのか」との指摘には、身につまされた参加者が少なくなかったのではないか、と思いました。
最後に、千金楽さんは、サッカーのJリーグで選手を選抜する際、「リバウンド・メンタリティー(落ち込んでも這い上がる精神)が多い選手を選ぶ」との話を引き合いにファッション業界にとって、今こそ、必要なことは挑戦だ、と締めくくりました。これには、誰もが共感したのではないでしょうか。
(聖生清重)