FISPA便り「供給過剰の解消こそ」

 筆者が繊維ファッション業界の専門紙で記事を書くようになったのは、1970年代の初めです。最初に配属された部署は市場担当でした。当時は、小豆やゴムなどとともに綿糸、毛糸、生糸、人絹糸が商品先物市場に上場されていて、商社も盛んに売買していました。取材のポイントは、綿糸なら米国やエジプトといった綿産国の綿花の需給動向や消費国での綿製品の需要動向、定期市場に参加している商品先物取引会社の調査マンの相場観などでした。

  そのころ、衣料品業界では既製服化が急速に進展し、「アパレル産業」という言葉が使われるようになっていました。何故、そんな古い、しかも、個人的な体験を書こうとしたのか。それは、相場記者の時、先輩や商社マンから「需要と供給」の重要性をことあるごとに聞かされた記憶が鮮明に残っているからです。もう少しで終わる2019年のアパレル産業界を概観したとき、繊維ファッション産業の中核であるアパレル業界の不振に思いが至り、その根底に需要と供給のアンバランスがあることに改めて気づいたからです。

 以前、このコラムでも触れましたが、日本繊維輸入組合が調べた2018年のアパレル製品の国内総供給量は約40億点弱です。下着を含んでいますが、人口から見ても、インバウンド消費を加えても明らかに供給過剰です。さらに、ファッション・流通コンサルタントの小島健輔氏によると、家計調査から推定したアパレルの消費量は13億6100万点ですが、この数量を上回る15億3800万点が売れ残っているとのことです。

 多分、アパレルファッション業界に身を置いている人は、アパレル製品が「供給過剰」であることを日常的に知っているでしょう。建値消化率も50%を切ったと言われています。供給過剰による値引き、売れ残りが常態化している中で悪戦苦闘しているのではないでしょうか。一部の小売り系のアパレルは、ユニクロを筆頭に健闘していますが、大半のアパレル企業は供給過剰に苦しんでいることでしょう。

 産業界全体の供給過剰は、個社では改善できません。であるなら、ここは川上から川下までの業界団体のリーダーやリーディングカンパニーのトップに「供給過剰を解消する必要性」をアナウンスしてもらい、需要と供給がバランスした姿になるように動いていただきたいと思います。アナウンス効果は限られたものかもしれません。しかし、現状を放置してよいわけがありません。来るべき年の大きな課題だと思います。          

(聖生清重)