FISPA便り「2030年にあるべき姿の精神」

 アジアでの生産から販売へ―。日本繊維産業連盟(鎌原正直会長)はこのほど、「2030年にあるべき繊維業界への提言」をまとめ発表しました。その骨子を一言でいえば、「生産はグローバル化したが、今度こそ販売のグローバル化を―」でしょう。

 提言は「世界の繊維市場は人口増と一人当たりGDPの拡大を受けて、潜在的には市場の拡大というチャンスが目の前に広がっている」との認識から我が国繊維業界の2030年の「あるべき姿」を前提に「あるべき姿」を実現するために解決すべき共通の課題・方向性を整理し、業界などに発信するとともに同連盟としての当面の対応策を提示したものです。

 提言のポイントを数字で見るとこうです。国内の市場規模は、廃棄量ゼロを達成しつつ、国内のアッパーミドル市場開拓の効果で約1兆円増加する。アジアの富裕層をターゲットとした市場規模は2兆5040億円となり、国内市場と合わせて約14兆1360億円(2015年は10兆5150億円)となる。国内縫製からの供給量は23万トン(960百万点)から23万トン(520百万点)と衣料品点数は減るが、原価は8000億円から2兆640億円へと増加し、テキスタイル産地や縫製企業の収益向上につながる、としています。

 廃棄ゼロを含めて、サスティナビリティ(持続可能性)にも意を配った野心的な姿を描いています。進むべき方向では「イノベーションによる新たな価値創造」、人材育成、外国人材の活用を含む多様性への対応、産官学の連携強化にも触れています。

 日本の衣料用繊維産業の中核であるアパレル産業の針路については、かねて国内市場では中間ゾーンが主戦場でした。現状も変わりないでしょう。しかし、アジア市場への進出では、これまでにも多くのアパレル企業や小売業が挑んでいますが、ユニクロ、無印良品はともかく、現状、成功事例は少ないのが現実です。提言も「アジア地域におけるアッパーミドル市場を主戦場として認識し、日本文化や日本ブランド力を武器に市場開拓に努めるべきである」としています。提言は、川上から川下までの全業界が「登るべき山」を定め、登り方の方向を示したものですが、今度こそ「アジアの富裕層という山に挑む(販売のグローバル化)べきだ」と読めるのではないかと思います。

 提言は、「繊維業界のあるべき姿実現に向けた取り組み」の第1で「提言の方向に向かって繊維企業の奮起を期待したい」と書いています。行政や大学・研究機関などのサポートも必要ですが、何よりも必要なことは経済学者のケインズが説いたという「資本主義の源泉はアニマルスピリット(野心的意欲)にある」ということではないでしょうか。             

(聖生清重)