FISPA便り「こんな時に読む本」

 新型コロナウイルスの感染の世界的な拡大で、世界保健機関(WHO)は「パンデミック」(感染症の世界的大流行)を宣言しましたが、こうした不安な時に思うことは「何もない平凡な日常」のありがたさではないでしょうか。

 勤め人なら、決められた時間に出社し、決められた仕事をこなす。退社後は、時に寄り道しながらも家庭に戻る。学業中の児童・生徒も決められた時間に登校し、勉強や運動をして決められた時間に自宅に帰る。一日の時間の使い方は、個人個人で異なり、多種多様ですが、それでも一定の流れがあるでしょう。

 世界か各国の指導者達が口をそろえて「国民の生命を守り、経済活動を停滞させない」との決意を示しています。まったくその通りで、感染拡大を止め、一日も早く正常な状態を取り戻してもらいたいと思います。現状は、世界の多くの人々が、休校や閉店、開店時間の短縮、あるいは外出の自粛などを余儀なくされ「何もない平凡な日常」を待ち望んでいることでしょう。

 もとより、企業関係者は大変です。需要の急激な落ち込み、原材料や部品の入荷遅れに厳しい対応を余儀なくされていることでしょう。繊維・ファッション業界にとって、3・4月は卒業式、謝恩会、入学式などのモチベーション需要がある、かき入れ時です。飲食業もそうですが、事業の継続に不安を覚える方もいらっしゃるのではないかと心配です。

 あれやこれや思いを馳せながらモヤモヤしていた時、読売新聞の15日付読書欄でタイムリーな記事に出合いました。生命科学者で大阪大学教授の仲野徹氏が「新型コロナ 何を読むべきか」と題して、こんな時だからこそ読む価値のある何冊かを薦めていました。

 それによると、カミュの「ペスト」は良く売れているそうです。一方、スティーヴン・ジョンソンのノンフィクション「感染地図 歴史を変えた未知の病原体」は、ミステリーのような面白さで「原因が細菌であるということなど全くわからずにコレラ感染を抑え込めたのは驚くべきことだ」。ジェニファー・アッカーマンの「かぜの科学 もっとも身近な病の生態」は、ウイルス感染の予防法と医学的根拠を丁寧に説明しているそうです。吉村昭の「破船」は、筆者も以前、読んだことがあります。貧しい北の漁村を襲った災禍を活写したものですが、仲野氏は「病気に対する無知は何と大きな罪かと教えてくれる」と記しています。

 その上で仲野氏は「あふれかえる玉石混交の情報に振り回されるのは、無知よりひどいことかもしれない」と述べています。同感です。

 改めて、正しい知識を身につけて、マスク、手洗い、感染の恐れがある場所や機会は避けるなど、各自、対策を実行することが大事だと思いました。

(聖生清重)