FISPA便り「苦労を楽しむ」

 新型コロナウイルスの感染拡大で、「東京オリンピック・パラリンピック2020」が1年延期されることになりました。最近の世界的な感染状況からみて、今夏の開催は厳しいとの見方が急速に広がっていましたが、「中止」でなく「延期」になったことは、最悪事態としては救いかも知れません。

 それにしても、コロナウイルスの感染拡大による、経済活動の急激な落ち込みはどれほどのものなのでしょう。百貨店の3月の売上高はリーマンショック時を上回って史上最低になりそうだとみられています。消費や旅行、娯楽などのサービス需要の減少の度合いは記録的な低水準になりそうです。

 それに加えて、オリンピックの延期です。オリンピック需要も1年持ち越しです。開催当事者の対応は大変でしょうが、当てがはずれた企業も天を仰ぐばかりではないでしょうか。国内の感染状況も予断を許さない中でのオリンピックの延期。先行きは一段と厳しさがつのり、体力を消耗している企業の倒産が心配です。

 事情は海外でも同様で、各国は感染拡大の防止、感染者の手当てに全力をあげる一方、大型の経済対策を打ち出す方針を明らかにしています。そうした経済対策の報道で株価は大幅に乱高下していますが、時は緊急時ですから、政府には大型かつきめ細かな支援を要望したいと思います。

 もうすぐ新年度入り。桜花は各地で咲き誇っています。学校も4月の新学期には再開の方向です。感染の終息が見えない状況でのオリンピック延期で気持ちが晴れない日々が続きそうですが、コロナウイルスの感染もいずれは終息に向かうでしょう。

 苦しい時ですが、こんな時だからこそ元気がもらえる言葉を思い出しました。旭化成の中興の祖、故・宮崎輝さんが、好んでいた言葉です。「苦労を楽しむ」。筆者が現役記者だった時、宮崎さんには何度もインタビューしました。その時「苦労を楽しむ」と墨書された色紙を見せていただいたことが何度かあります。大事に額装して掲示してあった個性的な文字でした。
名のある書家に書いてもらったと話していましたが、あの大経営者の宮崎さんでも「苦労」が多く、そのため、苦労に負けないように「苦労を楽しむ」と自分で自分を励ましていたのか、と思い、雲の上の人だった宮崎さんに人間臭さを感じて、緊張感が一気にほどけたことを覚えています。

   コロナウイルスによる人と物流の収縮は各方面に多大な悪影響を及ぼしています。だれもが「苦労」していることと思います。個別企業での対応策には限界があるでしょうから、なかなか「楽しむ」心境にはならないでしょうが、政府の支援策も活用して、乗り切ってもらいたいと思います。   

(聖生清重)