FISPA便り「新年にふさわしくない?話」
新年が明けました。暦の日付が変わっただけとはいえ、そこは新年、安倍政権の好スタートもあって明るい雰囲気が感じられます。株高・円安で「今度こそデフレ不況脱却」の期待が高まっているのですから。
そんな新年にふさわしくない(?)話題をひとつ。20世紀最大の作家と称されるフランツ・カフカは、形容する言葉が見つからないほど「絶望の名人」だったそうです。昨年11月に発刊された「絶望名人 カフカの人生論」(飛鳥新社)によりますと、カフカは誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはき、誰よりも前に進もうとしなかった人間でした。
ある朝、目覚めると虫になっていた男を描いた「変身」の作家であるカフカ。彼は生きている間、作家として認められず、生活のために嫌な仕事のサラリーマンを続けました。結婚したいと願いながら生涯、独身でした。身体が虚弱で、胃が弱く、不眠症でした。家族と仲が悪く、特に父親のせいで自分が歪んでしまったと感じていました。
「将来に」、「世の中に」、「自分の身体に」、「自分の心の弱さに」、「親に」、「学校に」、「仕事に」、「夢に」、「結婚に」、「子供を作ることに」、「人づきあいに」、「真実に」、「食べることに」、「不眠に」、「病気に」絶望したカフカ。こんなことも言っています。「将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません。将来に向かってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」。
ウーン、と唸ってしまうのではないでしょうか。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいること、だと言うのですから。でも、唸った後に、ちょっとホッとするような、こころが落ち着くような気分にならないでしょうか。 希望、夢、明日へ、頑張ろう、挑戦。それはそれで大事です。「日本再生」、「震災復興」にとってもそうですし、新年にふさわしい言葉です。が、施政者は別にして、365日・24時間、「前へ」、「頑張れ」では疲れてしまいます。時には「倒れたままでいる」ことも必要でしょう。 カフカには、「勝手に解釈するな」と叱られそうですが。
(聖生清重)