FISPA便り「国産絹の行方」

 昨年11月20日付の当欄で書きましたが、どうやら純国産の絹産業は、工業生産の継続が不可能になることが確実になっています。すでに国内産の繭を使用した絹製品の市場シェアは、わずか0.7%です。消滅の危機に直面した日本の蚕糸絹業の持続的な発展に向けて、農水省は08年度から35億円を投じて「提携システム」という政策を実施してきました。  

 養蚕(繭生産)、製糸、撚糸、織り編み、染色加工、縫製、問屋、小売りの各段階の企業がチームを組んで(提携グループ)、高付加価値のブランド製品を開発、販売し、適正利潤をグループ各社に適正に配分することで、原料繭の再生産を可能にしようというものです。  

 ところが、専門家によりますと、58にのぼる提携グループのうち、順次補助金が打ち切られた後も事業が継続できそうなのは約半数の見込みです。日本で養蚕の再生産を行うために必要な生糸価格は1万5000円(キロ当たり)。対して中国、ブラジルからの輸入糸は6000-8000円。この差を埋めるのは至難の技と言うべきでしょう。  三味線や琴の絃。春繭からとった糸でないと素晴らしい音色がでないそうです。そうした「工芸」分野や50万円以上する高級訪問着は、今後とも継続できそうですが、そうした特殊な分野を除いた一般的な絹製品では、補助金がないかぎり純国産は消滅せざるを得ないのが実態です。  

 提携システムは、言わば「農工商」連携です。明治時代の近代化に貢献し、今なお600種を上回るジーンバンク(蚕種)を持っている国は世界で日本だけです。それだけに、「農工商」連携が成功し、養蚕から最終製品までの国産絹が持続することを期待していたのですが…。  

 現実は、工業生産品としての日本の絹は消滅し、工芸や特殊な分野だけで生き残ることになりそうです。いずれの日か工業生産として復活、との夢は追い続けたい思いです。                  

                                                                      (聖生清重)