FISPA便り「理事長会社の運命」

  「運命」を広辞苑で引くと「人間の意志にかかわりなく、身の上にめぐってくる吉凶禍福」とありました。その「運命」ですが、人生だけでなく、国家にも、企業にも等しく「運命」はあるようです。そして、人間の意志が未来を切り拓くとすれば、幸せを願わない人はいないでしょうから、当然、その未来は「吉」になるはずです。

 ところが、「運命」とは、人間の意志にかかわりないのですから、人間だけでなく、企業にとっても「凶」をもたらすことが歴史の教訓からくみ取れます。そして、その「凶」の運命はまことに過酷なものであり愕然とせざるを得ません。

繊維ファッション産業の歴史を振り返れれば、旧東京婦人子供服工業組合の理事長会社の「運命」がそうです。現在の日本アパレル・ファッション産業協会に吸収されましたが、日本のファッション産業の先頭を走ってきたアパレル企業の事業者団体です。

旧東京婦人子供服工業組合の理事長会社は、初代の岡村(株)から数えて5社が実質的に土俵を去る運命に見舞われました。いずれの会社も一世を風靡した会社です。昭和50年代初めには、ニューヨークで日本ファッションの展示商談会を大々的に催しましたが、その時には“エース”的な存在でした。

ところが、栄華の時は少なく、その後は倒産や企業規模の大幅縮小に追い込まれてしまいました。主因は、これら企業が単品に依存していたことから、主力売り場の変化(百貨店平場の縮小)で、自分たちの土俵が小さくなってしまったところにあります。主力販路だった品揃え型専門店が疲弊したことも痛手でした。同族企業から脱却できなかったことも理由だと言えるでしょう。が、要は時代の変化に適応できなかったと言わざるをえません。

「強いものが生き残るのではなく、環境変化に適応したものが生き残る」とは、あのダーウィンの進化論が説くところですが、変化が激しいファッションビジネスにとっても真理というべきでしょう。念のため付言すれば、現在の理事長会社であるオンワードホールディングスは、「吉」に向かって変化への適応に努めており、「凶」のジンクスを払拭するでしょう。   

(聖生清重)