FISPA便り「移動すること。集まること」

 人間とは何か。画家のポール・ゴーギャンの代表作である「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」の言葉を思い出しては、正解がなさそうな問いを考えています。

  そんな時です。予想通りと言うべきでしょう。2020年の流行語大賞は「3密」(密閉、密集、密接)に決まりました。だれもが納得できるでしょう。候補の言葉でも「アマビエ」や「オンライン」など新型コロナウィルス感染症拡大に関係する言葉が多かったことは、コロナに翻弄されている現代社会を象徴しています。

 「密」は、感染を食い止めるために避けなければなりませんが、その一方で「密」は、人の本能に根差しているようで、実践は容易なことではないように思えます。なるべく出歩かない。人との集まりは最小にする。言い換えれば、「移動」(外出)と「集まり」を少なくすることが求められているのですが、それが実に難しい。

  家庭は「集まり」の場です。勤務先も「集まる場」です。食料や薬の買い物に移動はつきものです。ネットという手もありますが、短期間に限定された商品だけなら可能かもしれませんが、移動しない生活は考えられません。集まりは人生にうるおいを与えてくれます。

  移動を減らす生活スタイルは、あらゆる産業に打撃を与えています。ファッション産業では、リアル店舗での売り上げが低迷したままです。ネット販売は健闘していますが、リアルの落ち込みを補うまでにはいたっていません。集まりの回避は、飲食業やサービス産業には致命的です。

  2020年ももうすぐ終わり。新しい年がやってきます。どんな新年になるのか。間違いないことは「移動」と「集まり」を極力、少なくする生活様式が必要な状況が続くと思われることです。

 そんな新年。ビジネスでも個人の生活でも、大事なことは、「3密」を回避しながら、当たり前のことをしっかり行うことではないでしょうか。その上で、これまでできなかったことを今こそ実行する。

 「我々はどこへ行くのか」。行き先は、強い繊維ファッション産業。働き方改革による生産性の向上、適量生産・適量販売、真に魅力的な商品開発などを実現して強い繊維ファッション産業へと「移動」する。そんな年にしたいものです。

                            (聖生清重)