FISPA便り「自由に共食できる日」
2020年は、新型コロナウイルスに翻弄された1年でした。満開の桜の下での人々の別れと出会いの春、本来なら世界中が熱くなったであろう東京オリンピック・パラリンピックの夏、紅葉を追って各地を巡る旅の最盛期の秋、すべてのシーズンでコロナに翻弄されてしまいました。
繊維・ファッション業界も需要の収縮で厳しい状況が続いています。人生の通過儀礼などの行事や旅が中止に追い込まれると、新しいファッションを買い求めることも少なくなることがまぬがれません。市場規模が縮小し、この状態はしばらく続くと覚悟すべきなのでしょう。
そんな1年。繊研新聞の繊研plusメールマガジン読者が選ぶ「2020年、印象に残ったワード」トップ5が発表されました。予想通り、と言うべきか、やはり、と言うべきか、コロナ関連が上位を独占しています。
第1位は、「密・3密」。今年の流行語大賞もそうでした。文句なく1位なのは納得できますね。第2位は「テレワーク(リモートワーク)」。多くの方が実践しているのではないでしょうか。第3位は「ニューノーマル」(新しい生活様式)。感染防止を図りながらの生活です。第4位は、同率で「マスク」と「鬼滅の刃」でした。
マスクは、必需品中の必需品になっています。繊維産地のテキスタイルメーカーや染色業者などもマスクに参入し、それを機に「自社ブランド」製品の企画・生産・販売に挑戦している企業もあると伝えられています。「鬼滅の刃」は社会現象になっています。「鬼滅の刃」が入らないとトップ5はコロナばかりになってしまう、とのコメントがありましたが、まったくその通りです。
さて、2021年です。社会経済活動にとって、引き続き厳しい年になることはまちがいなさそうですが、「誰もが当事者」のウィズコロナ、ポストコロナでの新しい生活様式では、個人的には食事の仕方を工夫しようと考えています。霊長類研究者で京都大学学長の山極寿一さんは「共食」の重要性をこう説いています(読売新聞20年5月11日付)。
「サルたちは食べるときには分散するのに、人間はむしろ集まって食事する。これはサルたちにとって食物がけんかのもとになるのに対し、人間は食物を親しくなるための道具として用いるからである。古くから人間は、食事を社会的手段として活用することによって信頼できる人間関係を拡充してきた」。
現状は、しかし「密接な付き合いは感染症の病原体にとって絶好の温床になる」ため「共食習慣をいったん解いて、分散して食べてみるのも一つの方策だと思う」と言っています。
「お酒を伴った共食」が自由にできる日が一日も早くやってくることを祈りたいと思います。
(聖生清重)