FISPA便り「共存と平和の祭典」

 年始のテレビを見ていてちょっとした違和感を覚えました。違和感と言うと語弊があるかもしれません。出演者の衣装が例年とはちょっと違っている、との感覚でしたから。何故だろう、と思った時、「コロナウイルスの感染が拡大している」ことから振袖などの華やかな衣装の着用を遠慮したのはないか、と思い至り、そうした配慮に納得しました。

 いつもと違う新年が明け、新しい年に入りました。しかし、コロナウイルスとの戦いは続き、戦線が縮小する見通しは立っていません。振袖姿が激減した正月のテレビに象徴されるように異例ばかりの新春の風景です。恒例の箱根駅伝は今年も盛り上がりましたが、沿道の応援は自粛要請もあり激減しました。

 さて、2021年です。ウイズコロナという名のコロナウイルスとの共存が当たり前の年になりそうです。ちなみに、「共存」を辞書で引いてみると「2つ以上のものが同時に生存、存在すること」とあります。その「共存」は、多くの場合「共存共栄」と「共栄」を重ねて使うことが多いように思えます。もちろん、今年のコロナとの「共存」は「共栄」を伴わないものであることは言うまでもありません。

 感染防止に万全を尽くす新しい生活様式で、移動と集まりの自由が狭められ、経済、社会、文化活動に制約がかかることは避けられないでしょう。新年恒例の経済界トップの景気アンケートを見ると「売り上げ減」「賃金・設備投資の抑制」といった守りの姿勢が鮮明です。繊維・ファッション産業も同様でしょう。一部、IT関連は好調のようですが、消費関連産業は厳しい状況が続きそうです。

 そんな2021年ですが、夏には1年延期になった東京オリンピック・パラリンピックが開かれます。「人類がコロナに打ち勝ったオリンピック」としての期待が高まるでしょう。予測不可能な事態が起こるかもしれませんが、世界中の人々がオリンピックという「平和の祭典」をかみしめる一大イベントになることを期待したいと思います。

 「平和の祭典」と言えば、ファッション産業は、まさしく「平和産業」です。戦争や紛争のない「平和」だからこそ、人々はファッションを楽しむことができる。筆者が現役の繊維・ファッション記者だった頃、オンワードのトップ経営者であり、繊維・ファッション産業団体のトップだった馬場彰さんに毎年のように新春インタビューをしました。

「ファッション産業は平和産業なんだよ」とは、そんなインタビューでの発言でした。今年はその「平和の祭典」が開かれます。人々が心の底からスポーツはもちろん、ファッションも楽しむ。そのために繊維・ファッション産業は大事な役割を果たすことができると信じています。  

     (聖生清重)