FISPA便り「クリエイション大賞に見る人間っていいな」

 世の中にはさまざまな顕彰制度がありますが、筆者は毎年、一般財団法人日本ファッション協会(JFA)が実施している顕彰制度の日本クリエイション大賞を楽しみにしています。毎回、「人間っていいな」と心底、思えて、心が温まり、豊かな気分になれるからです。

 日本クリエイション大賞は、生活文化の振興につとめているJFAの中核事業で、「製品、技術、芸術・文化活動、地域振興、環境、福祉など分野を問わず、クリエイティブな視点で生活文化の向上に貢献し、次代を切り拓いた人物や事象などを表彰するものです。

 「日本クリエイション大賞2020」の大賞は、「明治神宮」。「100年先を見据え、英知を結集してつくられた明治神宮の森プロジェクト」でした。意表を突いた案件のように思えますが、無数のビルに囲まれた東京という大都会の中にあって、うっそうと茂る大木群。太古から続いているような森は、言われてみれば顕彰に値すると思います。都会のオアシスなどという月並みな例えでは説明できない膨大な時間の蓄積と人々の地道な文化的な営みが感じられるからです。

 この森は、明治天皇と皇后の昭憲皇太后をまつるため、1920年(大正9)に創建された明治神宮の鎮守の杜として全国から献じられた10万本の樹木と延べ11万人の国民ボランティアによって造林されたものです。当時は、畑で荒地のような景観でしたが、100年先を見越し、日本の英知を集めてつくられた「明治神宮御境内林苑計画」には、50年後、100年後、150年後の森林の変化が4段階の林相予想図として描かれています。

 木々はその後、人手を介さず淘汰され、100年後の今日、当初予定より早く、森は第4段階の入り口に入り、現在、約3万6000本の樹木と約2840種の生物が生息しているそうです。

 「明確なビジョンと壮大なグランドデザイン、それを忠実に守ってきた後代の管理者たちに心からの敬意を表したい」との授賞理由はまったくその通りだと思います。

 日本クリエイション大賞での楽しみはもうひとつあります。表彰式で行われる受賞者の謝辞です。これまで何度も表彰式に出席しましたが、受賞者の一言は、当事者にしか話せない熱い思いとともに、プロジェクトを進めてきた仲間たちや支えてくれた家族への感謝の言葉が胸を打つものばかりです。「人間っていいな」と感じる瞬間です。今年はコロナ禍で直接耳にすることができないのが残念です。                     

   (聖生清重)