FISPA便り「定跡と定石」
将棋と囲碁の世界では、何年かおきに、大物新人がすい星のように出現するようです。次々と記録を塗り変えている将棋界の藤井聡太さん。王位・棋聖の2冠で、まだ18歳の若者ですが、テレビニュースでお目にかかる、ちょっとはにかんだような、その静かな物腰には風格さえ感じます。一方の囲碁界では、弱冠12歳の仲邑菫さんが史上最年少で2段に昇段したそうです。12歳はまだ、小学6年生です。おそるべき天才!
将棋も囲碁も、まさしく実力の世界。強いものが勝ち、弱いものが負ける世界ですが、勝負ごとにつきものの「運」は、いったいどの程度影響するのでしょう。相性もあって、特定の相手には勝率が悪いこともあるようです。スポーツの世界でもありますね。相撲でも実力では明らかに上回っているのに、格下でも特定の相手との勝負では負けるケースが少なくありません。プロ野球でもチーム同士、投手とバッターでも解説者から「相性」が紹介されます。だからこそ、見ていて面白いとも言えますが、不思議と言えば不思議だと思います。
しかし、藤井さん、仲邑さんは、文字通り、実力で記録を塗りかえています。2人には「運」などといった余計なことを全く寄せ付けない強さとさわやかさがあると思います。もって生まれた資質と努力の賜物なのでしょうが、凡人にはまぶしく映るばかりです。
その将棋と囲碁ですが、筆者は習い初めたころ「ジョウセキ」を覚えなさい、と指導されました。その局面での最善の「手」のことですが、将棋では「定跡」囲碁では「定石」と記します。改めて広辞苑を引いてみると「定跡」は「将棋で古来の研究によって双方ともに最善とされる、決まった形の指し方」、「定石」は「囲碁で長年の研究によって部分的に双方とも最善とされる、決まった形の打ち方」とあります。
藤井さんも仲邑さんも「ジョウセキ」を踏まえながらも、それを上回る手を打っているのでしょうが、それはともかく、若者2人の活躍から、何故、「ジョウセキ」を思い出したのかと言うと、コロナ禍での緊急事態宣言の解除で、コロナとの共存下、部分的には回復が見込まれるであろうアパレルビジネスを成功させる「ジョウセキ」はあるのか、あるとしたらそれはどういうものなのか、ということです。
対象とする消費者が不特定多数なのか、特定多数なのか、あるいは特定少数なのか、企業、ブランドごとに異なるものの、「買ってよかった。身にまとえてうれしい」と思ってもらえる商品を提供することこそが「ジョウセキ」なのではないでしょうか。「ジョウシキだ」と言われそうですが…。
(聖生清重)