FISPA便り「節度ある日常への足音」

 新型コロナウイルスとの戦いで接種が進むワクチンに対して「切り札」とか「ゲームチェンジャー」との言葉が聞かれます。接種で先行する欧米からのニュース報道を見ても、確かに「ワクチン効果」が出ているように思えます。こうした動向は日本でも同様で、長引くコロナ禍もワクチン接種とともに新しいフェーズに入ってきた、と言えるのではないでしょうか。

 新聞報道によると、全米小売業協会による2021年の小売り売上高予測は、去る2月時点では「6.5%増」だったのが、最新の予測では「10.5~13.5%増」に上方修正された、とのことです。ワクチン接種、政府の給付金、企業努力などを背景に消費意欲が高まっているようです。

 日本は、果たしてどうでしょうか。東京オリンピック・パラリンピックで人流が増加し、感染が増えかねない、と心配する声も多く聞かれます。いわゆる専門家と呼ばれる人からの懸念の声も報じられています。

 しかし、そうした懸念もワクチン接種が進展することで解消に向かって欲しいと思います。「科学的な根拠なき楽観」は戒めなければなりませんが、一国民としては、引き続き感染対策に留意しながら、徐々にでも「日常」が戻ることを願っています。

 そんな思いで「日常」という言葉を広辞苑で引いてみました。「日常」の語は辞書を引くまでもないのですが、何かを考えたり予測したりする上で、辞書は時に有効なヒントを与えてくれると思うからです。というわけで「日常」を引くと「つねひごろ」、「ふだん」と出ていました。

 ワクチン接種で、徐々に「つねひごろ」、「ふだん」が戻ってくる。「日常」と言った方が良いかも知れませんが、日常が戻るにつれて、米国での小売り売上高予測の上方修正のような流れが出てくるのでしょうか。おそらく消費需要や旅行、会食、芸術鑑賞など約1年半も自粛を余儀なくされていた反動もあって出てくるでしょう。

 その際、いささか言葉遊びのようですが「つねひごろ」考え、その日のために備えてきたてあろう事業展開を是非とも成功させてもらいたいと思います。誰もがコロナ禍で思うような活動ができない中で自社に合った対応策を検討してきたと思われる「SDGs」の潮流に合ったビジネスやブランド戦略を発揮することが、コロナ禍で疲れた消費者の心をほぐすことにつながると思います。

 もとより、コロナとの戦いは、まだまだ、続くのでしょう。ワクチン接種が進んだとしても、マスク、手洗い、手指消毒など細心の注意をはらう必要があるでしょう。そうした中でも「節度ある日常」が戻ってくる。

 ファッションが疲れた心を癒す機会が増えることでしょう。  

(聖生清重)