FISPA便り「2つの調査が示すモノ、コト」

 10月に入って、コロナ感染者の減少傾向が鮮明になっています。緊急事態宣言が解除され、感染対策を講じながら日常生活を取り戻す動きが強まっています。これまで抑えられていた外出自粛から解放された人々は街に繰り出し、これに伴って消費も活発化しています。「リベンジ消費」という言葉が新しい日常を象徴していると思います。

 そんな中、アパレルの消費市場規模の統計が相次いで発表されました。ひとつは、矢野経済研究所の国内アパレル市場に関する調査です。紳士服、婦人服、ベビー・子供服などの2020年の国内アパレル総小売市場規模は7兆5158億円で前年比18・1%の大幅減となりました。

 百貨店の落ち込みが最大で、量販店、専門店も苦戦。セレクトショップの売上げも減少傾向です。一方でファッション通販サイトやECモールは成長傾向にあるとの結果になっています。

 もうひとつは、繊研新聞が調べた2020年の日本の消費市場規模(推定)です。8兆3451億円で前年比13・7%減とこちらも大幅減となっています。減少幅は過去20年で最大とのことです。百貨店、量販店、専門店はいずれも2ケタ減少だったのに対し、ECは2ケタ増加の結果になりました。

 2020年3月から深刻化したコロナ禍で、外出自粛や商業施設の休業、時短、入館制限などの影響が色濃く出た結果は、巷間、伝えられていた「感覚的数字」を裏付けるものだと思います。

 リアル店舗の苦戦、ECの成長という昨今の潮流も裏付けられた格好です。リアル店舗とECを連動させた「OMO」を強化するニュースが増えていますが、市場調査からもその方向が正しいことを示していると言えそうです。

 当面は、リベンジ消費もあって、アパレルの小売り売上げも回復色を鮮明にしそうです。旅行、外食、観劇、スポーツ観戦など、徐々に回復すると思われます。我慢していたファッション商品の購買にもつながることでしょう。

 しかし、中長期的にみた日本のアパレル市場規模は、少子高齢化、人口の減少で縮小傾向が免れないのではないでしょうか。インバウンド需要も不透明なままです。

 だからでしょう。アパレル各社は、アウトドア関連商品や生活雑貨など、いわゆるライフスタイル分野での商品開発に力を入れています。外出自粛から解放された以降も「家で過ごす時間」が多くなるのがコロナと共存する「新しい日常」で、そうした「家での時間」を豊かなものにする「コト」と「モノ」の提案競争が一段と激化しそうです。              

(聖生清重)