FISPA便り「新興ブランドの出番」

 コロナ感染者数が劇的に減少する中、久しぶりに郊外の大規模商業施設に出かけました。真っ先に気が付いたのは3層の施設の1階に広いスペースで出店していたファストファッションが撤退し、その後にはそっくりアウトドア用品店が入っていたことです。驚きはありませんでしたが、時代の変化を実感させられる交代劇です。

 ファストファッションからアウトドア用品への交代劇は、まさしく時代の流れを象徴しています。前者が飽きられる一方、後者はコロナ禍で人気が高まっています。「密」が回避できるうえ、IT(情報技術)にせかされたような生活から解放されたいとの志向にも合致しています。一人でキャンプする「ソロキャンプ」が結構、人気なのがその証拠ではないでしょうか。

 生活者の意識の変化を売り場の変化で実感しながら、多くの商業施設ではテナントの撤退で売り場の「歯抜け状態」が進んでいるとの報道を思い出しました。コロナ禍での外出自粛の影響で商業施設の売り場では大手ブランドメーカーを含むアパレル企業の不採算事業、不採算ブランドからの撤退や縮小で「歯抜け」が進行しているようです。

 その対応策の一つが小規模ブランドの期間限定店に代表される新興ブランドの出店です。OEM(相手先ブランド生産)メーカーによる自社ブランドへの挑戦やこれまでにない感性を持ったニッチ市場向けブランド、特定少数から熱い支持を受けるマニアックなブランド、地球環境問題に真正面から向き合ったブランドなどなど。従来なら出店できなかった、そうした小規模だが多様なブランドが既存ブランドに置き換わる動きが定着する可能性があるのではないでしょうか。

 ファッション産業界では、いつの時代でも同質化の懸念がぬぐえません。言葉を換えれば「流行」というものの存在とそれへの対応です。消費者ニーズにマッチさせようとすればするほど、結果として各ブランドが同質化しかねないのが現実だと思います。

 商業施設で生じている「空床」対策のひとつとして、小規模だが個性的なブランドが空いたスペースを埋めることになれば、その施設の多様性が高まることは間違いありません。ファッション市場全体の脱同質化にもつながるでしょう。ポストコロナに向けて、そうした流れが定着することを期待したいと思います。                           

(聖生清重)