FISPA便り「キーワードは共感」
紅葉前線が南下する秋の某日。思いついてファッション産業人材育成機構(IFI)エグゼクティブコースで行われた、IFI学長の一條和生一橋ビジネススクール国際企業戦略部専攻長教授の「デザインとテクノロジーが未来を創る」の講義をオンラインで聴講しました。
内容は「経営のかじ取りが難しい中、経営者がビジネスをデザインする時代だ。信念を持って構想した事業が皆の共感を呼び、実現に向かい、そのための手段がDX(トランスフォーメーション)であり、その根底は人間の感性が支えている」というものでした。
一條教授は、時代はカーボンニュートラルに見るように大変革期にある、として自動車産業の動向を紹介しながら「この問題こそが経営の最重要課題だ」と強調しました。英国・グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP26)のニュースが報道されている時だったこともあり、あるいは世界中で起こっている集中豪雨や大火災などの報道に接していることもあって、気球温暖化対策は、すべての産業の最大課題であることを再認識させられました。
ファッション産業として、ファッション企業として、ならばどう対応すべきなのでしょうか。一條教授は「分析、計画だけでは未来は創れない。未来構想(未来のデザイン)を物語り、他者からの共感を得て具現化することだ」と指摘しました。
具現化の方法はさまざまでしょう。COP26に合わせて、ステラ・マッカートニーは現地の美術館・博物館で「ファッションの未来:ステラ・マッカートニーとの革新的な対話」のエキジビションを開催し、菌糸体から作るレザー代替素材や海洋廃棄された漁網などを原料とする再生ナイロンを披露したと報道されています。
地球環境悪化の危機を克服し、持続可能な社会をつくる。衣料品の売れ残りによる廃棄を減らすためのビジネスモデルへの転換はかねての日本のアパレル産業の課題ですが、この取り組みもそうした流れの中にこそ位置づけられる重要課題なのだ、ということでしょう。その実現の手段としてDXを活用する。そうした「変革」の実現を期待したいと一條教授の講義で改めて思いました。
「未来のデザイン」では、「共感」が重要なキーワードになるのではないでしょうか。現代の生活者が共感できる企業姿勢やブランドの理念をアピールする。本来、ファッション産業にとって「デザイン」は不可欠な要素で、デザインとの親和性は高い産業です。商品だけでなく「経営」でも、そのデザイン力を発揮してもらいたいものです。
(聖生清重)