FISPA便り「もうはまだなり、まだはもうなり」

 株式相場などの予想の世界には、長年の経験則にもとづいてひねり出したと思われる格言があります。的中率がどうなのかは知りませんが、格言には妙に納得できるものがあります。「人の行く裏に道あり花の山」はそのひとつです。要は逆張りのことですが、付和雷同せず、人と違った道を行けば、そこにはきれいな花が咲いている。

 「もう」はまだなり、「まだ」はもうなり、もうまい表現だと思います。「もう、天井だと思って手じまいすると、「まだ」天井ではなく上値があった。「まだ」上昇すると思っていたら、「もう」天井でそこから一気に下落局面に入ってしまった、といった具合で、そんな経験をした方は多いのではないでしょうか。

 日本ではコロナ感染が落ち着いています。ヨーロッパでは、ドイツや英国、アジアでは韓国で感染者が再び増加しています。南アフリカで発見された変異株も心配の種です。「もう」ピークは過ぎたとは言えず、「まだ」コロナとの戦いは続くと見た方が良さそうです。

 緊急事態宣言が解除された10月以降、ファッション関連消費は総じて堅調に転じています。百貨店など小売売上も上向いています。足元では、ガソリン、食材などの値上げの影響が気がかりですが、「久しぶりに外出して2年ぶりにコートを買った」と話す女性の声も身近で聞こえるのではないでしょうか。

 改めて、移動の自由のありがたさを感じ、自制しながらも友人などとの会食や旅行を楽しむ人々。そうした機会に新しいファッションを求める動きは「まだ」継続しそうです。一方では海外からの入国禁止措置もあり、経済活動への悪影響も懸念材料ですが、当面の消費行動は「まだ」強いのではないかと思われます。

 問題は、この小康状態がずっと続くかどうか、です。誰もが続いてほしいと願っていると思いますが、先行きは不確かだと腹をくくっていた方が良さそうです。コロナ感染以前から指摘されてきた課題、例えばアパレル製品の過剰供給、値下げ販売を前提にしたビジネスモデルからの脱却、世界的な大潮流であるSDGsへの対応など、さらにはコロナ後のファッション市場は「8掛け」になりそうだとの予測への備えなどなど。

 コロナ感染が「まだ」か「もう」かに関わらず、継続的に取り組む必要があると思います。そうした企業行動の根幹である課題解決の先にこそポストコロナの世界で、コロナ禍で抑えられてきた人々の「装う喜び」に全面的に応えることができる道が見えると言うべきではないでしょうか。    

(聖生清重)