FISPA便り「2030年の繊維産業と地方創生」
コロナ以前に比べて、やがてやってくるコロナ後の社会はどのように変化しているのだろう。持続可能な社会の実現という地球規模の課題に取り組みながら、奔流するデジタル革命で社会はどのように変わるのだろうか。漠然とそんなことを考えていた時、2030年に向けた繊維産業の方向性を検討する委員会がスタートしたとの報道に接しました。
経済産業省が産業構造審議会に繊維産業小委員会を設け、先月、議論を始めたとのニュースです。今後、月1回開催し、来春をめどに検討の結果をとりまとめる方針です。
デジタル化とサステナビリティ(持続可能性)への対応、人口減・高齢化・人生100年時代、オンライン消費の拡大と新たなビジネスの出現などを背景に、変化する産業構造や社会構造を踏まえ、繊維産業における今後の方向性を官民で共有し、戦略的に対応することが不可欠だとして新たな方向性を検討することにしたものですが、いかなる結論を導くことができるか、大いに注目したいと思います。
第1回会合で提出された資料はネットも公開されています。(経済産業省HP)それによりますと、繊維産業の現状は「厳しい」の一言につきます。先進的な技術、製品があるなどの強みもありますが、市場規模や事業者数、出荷額など、多くの指標が「右肩下がり」です。人材の高齢化、確保難など課題も少なくありません。
コロナ禍で傷んだ業績を立て直しながら、課題が山積する中でいかなる姿が描けるのか。基本的には、国内市場は人口減少・高齢化で市場規模の縮小が予想されることから、テキスタイルやアパレル製品の海外展開は必至だとかねて指摘されています。
海外展開では、これまでにも海外での合同展示商談会の開催など、政府も支援してきました。しかし、一部の企業を除くと、全体としては成果が上がっていません。海外展開の「有効策」が打ち出せるかどうか、期待を込めて見守りたいと思います。
一方、全国に点在する繊維産地です。資料によりますと、2019年の事業所数は、2005年に比べて半減しています。グローバル化でアパレル製品の輸入浸透率は98%にも達していることはご承知の通りです。そうした環境下で人材の確保難にも苦しむ産地企業がもがいていることが事業者数の減少に現れていると思われます。
筆者はかねて、産地のあり方では、産地企業はその地域の創生とも深く関わっていることから、その維持、発展を期待してきました。歴史と伝統、高い技術力と優れた感性から生み出される「日本のテキスタイル」は、人々の豊かな衣生活に貢献するとともに、世界のファッション市場でも受け入れられると思うからです。
産地企業の海外展開が軌道に乗る日。それは、日本の課題でもある地方創生が実現する日ではないでしょうか。
(聖生清重)