FISPA便り「新しい姿への希望」

 コロナ禍に明け、暮れようとしている2021年の世相を表す「今年の漢字」は「金」でした。東京オリンピック・パラリンピックの金メダルラッシュ、大谷翔平選手の大活躍は、まさしく金字塔。ふさわしいと思われますが、さて、繊維・ファッション業界にとっての今年はどんな年だったのか、そして来るべき来年はどんな年になるのでしょうか。

 今年を振り返ってみると、アパレル製品やインテリアなどの繊維製品の売れ行きは、人々の移動の自由と共にあることを改めて知らされた1年だったと言えるでしょう。年明けや春の緊急事態宣言下では、商業施設の休業や時短の影響を受けました。外出、会食、会合の自粛は、もろにファッション消費を抑制しました。

 秋口以降はコロナ感染者数の減少が続き、10月、11月の販売回復はご承知の通りです。人と会う。会食する。イベントに参加する。旅行する。そうした移動に伴い、久しぶりに新しいファッションを購入する。プレゼントの品を求める。秋以降の消費回復の原動力は、何と言っても感染が低水準に抑えられているところにあるでしょう。

 さて、来年です。消費動向は感染状況に左右される構造は変わりないでしょうが、そうした中でも注目したいことは、サステイナブル(持続可能性)への取り組みの進展と定着、積年の課題である過剰生産・過剰供給・大量廃棄の是正、多様なファッションへの期待です。

 サステイナブルへの取り組みでは、繊研新聞が認定NPO法人ACE(エース)と共同で先ごろ、繊維・ファッション企業を対象に行った「サステイナブル調達に関するアンケート」結果が注目されます。回答96社のうち、実に93社が「人権や環境、社会に配慮した製品を企画・販売している」と答えています。

 おそらく、来年も大型台風や大雨、地震に見舞われることがあるでしょう。海外でも同様です。その都度、地球温暖化の悪影響が指摘され、いや応なく持続可能な企業行動が求められるに違いありません。原料から製品、小売りまでのサプライチェーンの各段階でサステイナブルな取り組みが一段と進展することが期待されます。

 かねての課題である過剰供給の解消は、アパレルを中心にした適量生産・適量販売のビジネスモデルの確立と軌を一にするものでしょう。無駄な生産をやめ、定価で売り切るビジネスモデルの構築は、流行や天候に左右されるアパレル製品にとっては容易なことではないでしょうが、DX(デジタルトランスフォーメーション)を駆使して是非とも成果をあげてもらいたいものです。

 さらに、注目される動きはD2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)の波です。年末には大手商社の丸紅がインフルエンサーを起用したアパレル製品をインターネットで直接、消費者に販売する事業に参入するとの報道がありました。中小の繊維製造業者が参入している、こうしたD2Cは、多様性が本来の持ち味であるファッションの本質に迫る手法で、ファッションシーンの多様性を一段と高めるのではないでしょうか。            

(聖生清重)