FISPA便り「感動を与えるファッションの創出」

 寅年の2022年が明けました。年末年始の新聞やテレビ、ネットなどの報道を参考に、今年のファッション業界の行方をつらつら考えた結果、キーワードとしては「感動を与えるファッションの創出」がふさわしいのではないか、との結論に至りました。「そんなの当たり前だよ」との合唱が聞こえてきそうですが、とは言え、生活者に感動を与えることはファッション産業の本質的なミッションですから、妥当なのではないかと思います。

  3年目に入ったコロナ禍は、依然として終息の見通しがたっていませんが、ワクチンと治療薬で季節性インフルエンザに“格下げ”される可能性も取りざたされるようになってきました。ウイズコロナ時代です。人々の外出、集まり、会食が極端に制限されない状況下、アパレル製品を含む消費は緊急事態宣言が発出された昨年よりは増えそうです。

  地球規模で現代を見渡すと、米国型の資本主義も中国型の国家資本主義も格差拡大というやっかいな問題を抱えています。一方で、地球温暖化対策は待ったなしです。米中対立の中で日本も何らかの影響を受けることは避けられないでしょう。日本は岸田政権が目指す「新しい資本主義」をどう形成するのかが注目材料ですが、これが繊維・ファッション産業のあり方にどうかかわってくるのでしょう。

  昨年秋以降の消費は、回復が顕著で年明けも好調に推移しています。だれもが感染対策を怠ることはできませんが、ウイズコロナの生活のなかで、今年の消費は、リベンジ消費も含めて堅調に推移しそうです。過去2年間、消費の低迷に苦しんできたファッション関連業界は、久しぶりの好況感を感じることができるかも知れません。

  しかし、課題もあります。素材から小売りまでのサプライチェーンの各段階で、人手不足が伝えられています。全国の繊維産地を調査している専門家によると、コロナで技能実習生の入国ができず、人手不足に陥っている縫製業は少なくないようです。加えて、世界的な原材料費の高騰、さらには円安といったコストアップ要因が目白押しです。

  さて「感動を与えるファッションの創出」です。地球規模の大きな問題、業界固有の課題を抱えながらも、明るさが見える今年のファッション市場。コロナ禍で強まった高機能・低価格の日常着、アウトドア系のブランド人気に加えて、「おしゃれ」という願望、いや夢を実現するファッションの出番が来ているのではないでしょうか。

  現代は夢を語るにふさわしい時代ではないかも知れません。しかし、だからこそファッション産業には人々の夢の実現に力を発揮してもらいたいと思います。                            

(聖生清重)