FISPA便り「食品輸出1兆円突破で思ったこと」
昨年暮れに報じられた「日本の食品輸出1兆円突破」のニュース。新聞やTVで知って、複雑な気持ちになったというか、いささか考えされられました。ニュースそのものは、驚きを伴う明るいもので、すなおに日本の農水産業の健闘をたたえたいと思いますが、複雑と言うのは、日本の繊維品、なかでも衣料品輸出が低水準のままで推移しているからです。
食品輸出で伸びている品目は、日本酒などのアルコール飲料、牛肉、ホタテ貝とのことですが、輸出ということでは、繊維品、とりわけ衣料品は低迷しています。日本の繊維産業は、戦後復興をけん引する輸出産業として発展してきた歴史がありますが、70年代以降は、生産地が開発途上国に移る中で輸出が減少する一方輸入が増加し、ずっと入超が続いています。衣料品にいたっては、輸入比率が約98%にも達している現実はご承知の通りです。
食品輸出1兆円。ドルに換算すると115億ドルです。いまから10年強前の頃。日本の繊維品輸出は100億ドルを達成するかもしれない、との期待がありました。2011年には98憶ドルでしたから、十分、可能だったと言えます。しかし、その後は、減少傾向が続いています。
そんな日本の繊維品輸出で残念なことは衣料品輸出の少なさです。昨年11月に開催された経産省の産業構造審議会繊維産業小委員会の第1回会合に提出された資料によると、日本の2020年の衣料品輸出額は546億円です。欧州の先進国はどうかというと、イタリアは2兆3400億円、フランスは1兆1800億円、ドイツは2兆4600億円となっています。域内貿易が多いこともありますが、日本との差は歴然としています。
同じ資料から生地輸出を見ると、日本の2278億円に対し、イタリア4572億円、ドイツ2577億円、フランス1260億円となっています。日本も肩を並べていることが見てとれます。生地輸出は健闘していますが、衣料品は日本が突出して少ないことがわかります。
衣料品輸出拡大については、かねて行政の支援も受けて欧米や中国での展示商談会に出展するなどの努力を続けてきました。国内生産品の輸出だけでなく、例えば、「日本企画・日本仕様の海外生産品の第3国輸出」にも挑戦しましたが、現実は道半ばが実情です。
日本ファッションを世界へ、の掛け声も最近は耳にしなくなりました。足元ではコロナの影響が深刻ですが、ポストコロナでは再び「日本ファッションがアジア市場、世界市場で羽ばたく日」に向かっての挑戦と成功を期待したいと思っています。
(聖生清重)