FISPA便り「迷ったら元に戻る」

 コロナ感染者の減少が続き、一方では、ワクチン接種もあって、社会経済活動の活発化が期待できるようになってきました。個人旅行客の入国制限も10月をメドに解禁すると伝えられています。旅行需要やインバウンド(訪日外国人)需要も回復しそうです。

 とは言え、現状は多くの課題が目の前に立ちはだかっています。アパレル業界では、原材料価格、物流費の高騰に直面しています。記録的な円安が追い打ちをかけています。コストアップの三重苦です。低価格を主要武器にしているユニクロ、しまむらなどはすでに秋冬商品の一部を値上げする意向を示しています。

 アパレル業界では、中間ゾーンを得意とするアパレル企業、セレクトショップ、ネット販売業者なども90年代以降、デフレ経済の中でコストを抑制し、販売価格を極力、抑える低価格戦略を志向し、実践してきました。しかし、アパレル製品の大半の生産地である中国やベトナムなど海外の人件費も上昇しており、これまでのような低価格を維持するのが難しくなっています。

 社会経済活動の活発化、インバウンド需要の回復など、久しぶりに明るさが期待できる一方では、猛烈なコストアップにも直面しているのが現状でしょう。長年のデフレ慣れから脱却し、値上げという選択をせざるを得ない状況だといえるでしょう。

 問題は、その値上げです。価格に敏感というか、長年の低価格に慣れた消費者が値上げを受け入れてくれるかどうか。値上げせざるを得ないが、値上げによって肝心の消費が縮小する心配がぬぐえない。まことに悩ましいところだと推察します。

 進むべき道が間違っていることに気づく。進むべき道に迷ったら、そのまま進んだり、近道だと思える道に進路をとるのではなく、道を間違えた地点、つまりは岐路に戻るのが登山の鉄則です。岐路に戻って、改めて正しい道を進むことで、遭難を防ぐ、というわけです。

 コストアップへの対応にあたって、登山の鉄則が参考になるかどうかわかりませんが、おそらく、値上げ圧力を回避する妙策はなさそうですから、商品の付加価値を高めて、その価値に見合った価格を設定することが必要なのではないでしょうか。

 アパレル産業は、かねて付加価値産業だとされています。その通りでしょう。「高くてもよいから、品質もデザインもいいものが欲しい」という消費者の欲求に応えてもらいたいものです。              

 (聖生清重)