FISPA便り「スポーツとファッションのチカラ」

 紅葉前線が天気予報のニュースに合わせて報じられる昨今、季節は秋本番です。秋と言えば「〇〇の秋」を楽しむシーズンです。食欲の秋、読書の秋、行楽の秋はその代表でしょう。そんな「〇〇の秋」といった言い方同様、「〇〇のチカラ」という言い方も少なくありません。

 秋に関連して言えば「芸術のチカラ」といった言い方です。「力」と表現せずに「チカラ」と表現するのは、肉体や筋肉の「力」ではなく、「心に響く力」を意味するからでしょう。「芸術の秋」に芸術に触れることで、心の栄養を補う。「食欲の秋」で肉体を補強し「芸術の秋」で心の満足を得る。そんなイメージが浮かびます。

 そんな「〇〇のチカラ」を痛感したニュースが鮮明に残っています。先日、テレビのニュースで知ったのですが、ある高齢者施設でのシーンに心を動かされました。ニュースの途中から見ただけですが、なかなか感動的なシーンが映っていました。

  ある高齢者施設のことです。大勢の入居者が揃いのユニフォームを着てテレビでサッカーの試合を応援していたのです。ユニフォームは、ヴィッセル神戸のものでした。男性も女性も、実に楽しそうに応援棒を振っていました。声も張り上げているように見えました。多分、地元だったのでしょう。ひいきのヴィッセル神戸を応援する姿は、皆、若々しく高揚感にあふれていました。

  施設の入居者の心身の状態やサッカー知識がどの程度なのかはわかりません。中にはサッカーそのものを知らない方もいるのではないかと思います。しかし、仮にそうであっても、全員が、応援に集中していました。そこが高齢者施設であることを忘れさせる盛り上がりぶりでした。

  そうなのだと思いました。皆でスポーツを楽しむ。ひいきのチームを応援する。その際、ひいきのチームユニフォームをお揃いで着用して応援に没頭する。ニュースに映っていた高齢者の表情がその体験に対する満足感の高さを示していました。

「スポーツのチカラ」だと思いました。同時に、揃いのユニフォームを身につけることで心が高揚する。まさに「ファッションのチカラ」だと思いました。おそらく、全国の多くの高齢者施設でも同様のイベントが行われているのでしょうが、心が温かくなるニュースでした。

  ロシアのウクライナ侵攻、ソウルの悲惨な雑踏事故、物価高騰など世の中には不幸の種があふれています。ですが、一方では「〇〇のチカラ」もたくさんあるのだと思いました。                   

(聖生清重)