FISPA便り「『まさか』への備え」
外出・移動自粛や小売店の休業などの社会経済活動への制限がない日常が戻ってきた2023年。衣料品消費は確実に回復トレンドをたどりそうですが、一方では、エネルギー・原材料高、物流費の高騰によるコストアップ、人手不足など、問題は山積しています。
新年には、その年の株価の行方を予想する際、相場格言が引用されることが少なくありません。その相場格言ですが、卯年のそれは「卯跳ねる」です。野村証券によると、卯年の年末株価は1927年以降、8回中5回で前年を上回ったそうですから、格言の的中確率は高いと言えそうです。
格言頼みはともかく、2023年は、過去3年のコロナ禍で苦しみながら進めた構造改革の成果も期待できそうです。不採算ブランドや売り場の閉鎖や人員の適正化などです。加えて、値引き販売に依存しない生産・販売への注力の成果も業績好転につながりそうです。
繊研新聞社の経営トップアンケートによると、今年の見通しについて、半数を越える経営者が「良くなる」と回答しています。経済活動への制約がなくなったことに加えて自社の構造改革への手ごたえを感じていることが伺えます。日本経済全体の課題でもある賃上げが実現すれば、諸物価高騰というマイナス要因があっても消費を後押しするでしょう。入国制限の緩和でインバウンド需要も増加する方向にあります。
マイナス材料よりプラス材料が多い新春ですが、気がかりな問題も引き続き立ちはだかったままです。ロシアのウクライナ侵攻の泥沼化に起因するインフレ、中国のコロナ感染拡大によるSC(サプライチェーン)の混乱に備える必要があるでしょう。世界を見渡すと地政学的リスクも高まっているように思えます。予期せぬ困難に直面しないともかぎりません。
パンディミック(世界的大流行)を経て、社会は確実に変わっています。ECの重要性は一段と高まり、働き方も一部、リモートの定着など変化しています。消費者の消費性向も変わってきています。そうした変化への対応は引き続き2023年も最重要テーマでしょう。
「坂」には「上り坂」、「下り坂」に加えて「まさか」がある、と言われます。2023年の繊維・ファッション業界の景況は、全体的には「上り坂」が予想されますが、「まさか」もあることを念頭に、その備えを怠らないことが大事な年になりそうです。
(聖生清重)