FISPA便り「明治の超絶技法に敬服」
タイトルの「超絶技巧」の名に恥じないものでした。日本橋の三井記念美術館で展覧中の「明治工芸の粋」。精緻極まりない手技と美意識から生まれた工芸品の数々に魅了され時が経つのを忘れたほどでした。
明治の工芸品は、その多くが海外輸出用だったため、日本国内で全貌を目にすることはできなかったそうです。しかし、今展は村田理如氏の収集による京都・清水三年坂美術館の所蔵品のうち、七宝、金工、漆工、牙彫や薩摩、印籠、さらには近年、海外から買い戻された刺繍絵画など選りすぐりの百数十点が一堂に展覧されています。
ひと針ひと針、手作業で画面を埋めつくした刺繍。絹糸の光沢が絵具では表現できない質感を作り出しています。白く泡立つ瀑布の水の流れ、人物を描いた刺繍画は見る角度を変えると、輝きが刻々と変化します。
七宝の「花文飾り壺」。模様の藤の花びらはわずか1ミリメートル。精緻極まりない、としか言いようがない繊細さです。パンフレットによりますと、色の境目を金属線で区切る有線七宝とは思えないほどの細かさだとのことです。
象牙の彫刻は、タケノコ、ナス、柿、玉ねぎなど野菜や果物を製作したものですが、彩色された作品はまさにホンモノ。作者の安藤緑山は、弟子をとらず記録も残さなかったため現在では再現が不可能だとのことです。
作品のいくつかには、拡大鏡がセットされていました。例えば、蝶に菊の花を一面に散らした薩摩の絵付けは肉眼では不可能と思えるほどの細密さです。3ミリメートルの蝶は翅の上下で色を塗り分けているものさえあります。
精根と気が遠くなるような時間をかけて制作した工芸品の数々。薩摩の花瓶のひとつは、下部が日本的な花鳥風月で上部は19世紀末に西洋で開花したアールヌーボーの渦巻き模様の和洋折衷でした。
クールジャパンを官民挙げて世界に発信しようとしている今。明治のクールジャパンを是非、ご覧になったらいかがでしょう。デザインを生業にしているファッションデザイナーにも足を運んでもらいたいものです。自らの感性のどこかが刺激を受けるかも知れません。「精緻な美」を極限まで追求した先人の職人魂にも触れてもらいたいものです。同展は7月13日(日)まで。
(聖生清重)