FISPA便り「川向こうに挑む伊藤忠」

ジーンズ大手、エドウインの新体制が今月上旬に始動しました。傘下に収めた伊藤忠商事の久保洋三常務執行役員が現職のままエドウインの代表取締役会長に就任し、社名の「江戸(エド)で勝つ(ウイン)」から「世界で勝つ」企業への発展に全力を挙げることになりました。

商社の伊藤忠がエドウインの経営に乗り出したことについて、同社繊維部門を300億円超の純利益をあげる収益事業に育て上げた現伊藤忠社長の岡藤正広さんは「日本の繊維のビジネスモデルを変える」象徴的な事例にしたいとの思いがあると伝えられています。このニュースを聞いて思い出したことがあります。「アパレル企業の経営では、素材や商社マンの経営での成功確率は少ない」という定説です。

日本のアパレル産業が成長期に入った1970年代以降、紡績や合繊メーカー、商社がアパレル産業に相次いで参入しました。しかし、その結果は惨憺たるものでした。アパレル事業の年間売上高が700億円にも達した鐘紡の経営破綻は、同事業だけに起因するものではありませんが、そのひとつの象徴です。

同じ繊維産業に属しているはずなのに、何故、素材や商社マンによるアパレル企業の経営は成功しないのでしょう。その理由として指摘された説はこうです。繊維産業の川上に位置する素材メーカーや当時はテキスタイル中心だった商社に対し、アパレル産業は川中に位置していますから「隣り」の産業であることは間違いありませんが、実は、アパレル産業は「隣り」ではなく「対岸」つまり別世界の産業だから。

いささか言葉の遊びに聞こえるかも知れません。ですが、繊維カンパニープレジデントだった岡藤さんは、筆者が「商社マンによるアパレル経営が成功した時、商社の繊維部門は新しい地平に立ちますね」と水を向けるたびに「そやなあ」と笑みを浮かべて肯定していました。

伊藤忠の繊維事業は、新しい地平を切り開くことができるかどうか。大いに楽しみです。

                     (聖生 清重)