FISPA便り「“洗心”のススメ」 

「強く、正しく、明るく、吾を折り、良からぬ我欲を捨て、みんな仲良く相和して、感謝の生活をなせ。憎しみ、恨み、そねみ、うらやみ、呪い、怒り、不平不満、疑い、迷い、心配事、とがめてイライラする心、セコセコする心を起こしてはならぬ。これを洗心という」

十年以上は前のことです。ある日の夜、ある業界人(仮にAさん、とします)と酒席を共にさせていただいた時のことです。どのような流れで話題が生活信条に及んだのかは失念してしまいましたが、ともかく、Aさんは「自分の信条だ」と言って、「洗心」と題した一文を記した紙を手渡してくれました。

以来、思い出したように「洗心」と題した心得に目を通しています。ですが、その内容は、とてもじゃないけれど、凡人を自覚する筆者には手の届かない心得であって、遥か彼方の「仙心」(仙人の心)の間違いではないかと思えてばかりいます。

ところで、ものの本によりますと、仏教が説く害毒は3つで、これを「三毒」というそうです。貪欲、瞋恚(しんに)、愚痴の3つです。順に「むさぼり」、「いかり」、「おろかさ」です。従って、肝要なのは「毒をいかに志まで高めるか」であって、「高きを目指して貪り(むさぼり)、凡庸であることに怒り、愚かなまでに励め」と、その本には書いてありました。

「洗心」の心得か、三毒の戒めか。どちらも、「その通り」ではありますが、実行は容易ではなさそう、ですよね。

何故、こんなことを書いたかと言いますと、今年も夏休みが終わり、上期を終え下期に向かうビジネス秋の陣の季節に入ってきたからです。時の流れの区切りには、心機一転、新たな挑戦に向かうために、一時、初心に帰ることが有意義ではないかと思った次第です。

ちなみに、Aさんは、業界では有名人で、多分、このコラムを読んでくださっていると思います。「俺のネタを勝手に使いやがって」と思ったとしたら、それは「洗心」ではありません。

(聖生清重)