FISPA便り「日本発、近未来電動車いす」
毎年、早春のこの時期にはひとつの楽しみがあります。日本ファッション協会(馬場彰理事長)の主要事業である日本クリエイション大賞の表彰式です。より豊かな生活文化の創造に寄与するクリエイションワークを顕彰するもので、今年も「人間っていいな」と実感できる案件が表彰されました。
大賞に輝いたのは「四輪駆動で段差も乗り越える近未来型電動車いすを開発」したWHILL(ウィル株式会社)です。足の不自由な方に移動の自由をもたらすこの電動車いす。前輪に24個の独立したタイヤからなるオムニホイールを採用した四輪駆動車で、最大7.5cmの段差を乗り越えることができます。
芝生、雪道、砂利道もなんのその、スイスイ乗り切ります。しかも、オムニホイールは、縦に回転するだけでなく横方向にも転がるため、後輪を軸にして360度回ることができます。抜群な小回り性能は、狭い住居には必須のものでしょう。
価格は95万円。2014年9月に、日米で50台の限定生産を発表したところ、即完売。2015年度には、2000台の生産、販売を見込んでいます。
さて、WHILLです。2012年、日本の有名メーカーを飛び出したデザイナー、エンジニアの若手3人がアパートの一室で立ち上げたベンチャー企業で、日本を開発拠点に、本社を米国・シリコンバレーに置き、生産は台湾で行っているグローバル企業です。
表彰式で謝辞を述べた内藤淳平CDO(開発責任者)の言が秀逸でした。内藤さんはこう述べました。「若手、若手と言われますが、タイヤの開発をした人は60歳代です。日本のものづくり力と若手の力が一体となって開発できたのです」。ベテラン職人の技と若手の夢が、電動車いすの近未来を開いたと言えそうです。
大賞以外でも表彰された「ケニア、ルワンダの人々の“自活”の道を切り拓いた起業家」(佐藤芳之オーガニック・ソルーションズ社長)、「全国唯一増収転換を果たした路線バス」(十勝バス株式会社)、「常識を覆す不燃マグネシウムが世界の金属を変える」(熊本大学先進マグネシウム国際研究センター長・河村能人教授)も優れたクリエイションワークです。
(聖生清重)