FISPA便り「広島カープ優勝で思い出したこと」

 今年のプロ野球セリーグは広島カープが優勝しました。実に25年ぶりです。「赤い」ヘルメットがグランドで躍動し、球場を「赤色」に染め上げたファンと一体になって歓喜の雄叫びをあげるシーンを見ると、25年前が現代によみがえったような錯覚を覚えます。

昨今は、サッカー人気で野球人気は劣勢だと言われますが、広島の優勝報道をみると、「日本人は、心底、野球が好きなんだなあ」との思いを強くします。

 広島の優勝は、同球団が地方都市を拠点にする「市民球団」であること、広島が前の戦争で忘れえない惨禍を被ったこと、地方創生が重要さを増している時代状況などからみて、ファンならずとも大いに祝福したいと思います。

 ところで、野球と言えば、繊維業界にはかつて軟式野球ですが、ハイレベルな大会がありました。帝人が主催した「帝人杯争奪繊維人野球大会」です。この大会で四強に勝ち進むチームは全国大会でも上位に進むことができるほど、強豪が揃っていました。オーナー企業では、社長自ら高校野球の甲子園大会に出場した球児の自宅を訪ねて入社を勧誘していました。甲子園経験者を揃えて「甲子園に出場しただけでは胸を張れない。何回戦まで勝ち進んだかが問題だ」とさえ言われていたチームも複数ありました。

 広島の25年ぶりの優勝で思い出したことがあります。東京のアパレル、副資材、テキスタイル企業が、東京ドームで覇を競った「帝人杯」は、40回を数えてその役割を終えましたと記憶していますが、この間「30年、40年と企業が存続し、かつ、野球でも強豪チームを維持する」ことの困難さです。詳細は忘れましたが、第一回大会から最後の大会まで連続出場したチームは、わずか1チームだったと記憶しています。

 強い野球チームを維持するためには、有力新人をコンスタントに採用できるだけの業績をあげ続けなければなりません。企業として着実に成長し、かつ、強豪チームを維持する。広島優勝で思い出したこととは、二兎を追うことの難しさでした。

 しかし、それ以上に思うことは、東京ドームで熱戦を繰り広げた「帝人杯の常連チーム」の母体であった、アパレル企業の多くが、その後、経営破たんという悲しい結末に追い込まれてしまった事実です。理由は「時代の変化に適応できなかった」ところにありますが、それは後講釈と言うべきでしょうか。

(聖生清重)