FISPA便り「ファッションタウンと一人の女性」
ファッションタウンという構想があります。90年代に繊維ビジョンで提唱された繊維産地活性化の一環としてスタートした通産省(現経産省)の新戦略です。「地域の生活文化産業の“ものづくり”と生活文化を生かす“まちづくり”とが一体になって動いている生活圏(街、地区、地域、都市)」と言うのがその定義です。全国で20を上回る都市が名乗りをあげ、1993年には桐生市で第1回ファッションタウンサミットが開かれました。
その後「ファッション」をキーワードにした都市づくりが続いていますが、当初の熱気は薄れたように見えます。しかし、ここへきてファッションタウンが実現するのではないか、と期待される動きが出てきました。兵庫県西脇市で播州織とその製品を生産・販売する玉木新雌(たまき・にいめ)さんの存在です。
玉木さんは、福井県出身。武庫川女子大を経て専門学校でファッションを学び、卒業後は大阪の繊維専門商社に就職しましたが、仕事に物足りなさを感じ、デザイナーとして独立。布を求めて活動場所を探していた時に播州織に出合い、西脇市に移住。ストールを中心とする自社ブランド製品を企画・生産・販売してこのほど、10周年を迎えました。これを機に、若い女性を中心に約20人が働くアトリエ兼ショップを移転し大幅に拡張したそうです。
その玉木さんとファッションタウンです。実は、西脇市は「ファッション都市」構想を掲げ「20人の玉木新雌」を作る、との目標を掲げているのです。そのため、市は若手のデザイナーに1カ月当たり15万円の家賃補助をする制度を整えています。玉木さん自身「そうした人材を自らの手で育てていきたい」(繊維ニュース)と話しています。
玉木さんは、廃業した工場をリノベーションして起業しました。播州織の生産は、1デザイン当たり4メートルに絞って、一点もののストールをつくり、ネット販売を主に直営店でも販売しています。織り、ストールやストール以外のアパレル製品づくりはもちろんですが、糸染めから手がけています。
昨年、西脇市を訪ねて西脇産地とネットワークを築いた戸張隆夫日本アパレル・ファッション産業協会専務によると、片山象三西脇市長は織機メーカーの社長で、「玉木新雌を10人集めたい。そうしたら縫製工場をつくり、ミラノのような都市を目指す」構想を固めているそうです。
ファッションタウンには「地域産業が地域コミュニティーを育て、地域コミュニティーが地域産業を育む」との理念があります。「玉木さん」が輩出する日、西脇市はそうしたファッションタウンになっているでしょう。
(聖生清重)