FISPA便り「歩引き取引全廃に大きな一歩」
その年の暮れが近付くと、繊維ファッションSCM推進協議会(馬場彰会長)の活動では、最も大事な「経営トップ合同会議」がやってきます。今年は先週の18日に東京・有明のTOC有明コンベンションホールで行われました。
繊維ファッション産業は、川上から川下までの工程が長く、かつ工程間の分断構造が長く続き、さらには古い歴史があることなどから、かつては「暗黒大陸」と揶揄されたように、さまざまな問題を抱えていました。これに対して、2003年に設置した「経営トップ合同会議」は、「一堂に会してルールを定め、定めたルールは実行する義務と責任を負う」との理念にそって、繊維産業のSCM構築と公正な取引ルールの策定に努めてきました。
「経営トップ合同会議」を立ち上げた当時は、取引の基本契約書の概念すらなかったのが、「取引ガイドライン」を策定し、その普及啓発活動を進めた結果、現在は基本契約書の締結が当たり前になり、取引上の問題が発生しても「ガイドライン」に基づいて解決を図ることができるようになっています。
にもかかわらず、と言うべきでしょうか。6年前に「歩引き」取引の廃止を宣言したにもかかわらず、「全廃」は実現できていないのが実情です。取引適正化のために毎年、実施している「聴き取り調査」でも「実態は、廃止に至っていない」ことが明らかになりました。
このため、今回の経営トップ合同会議では、参加企業63社の経営トップが、経済産業省、オブザーバー企業、事業者団体を含めて、総勢120人が見守る中で「代金の減額を誘発する要因になりかねない」不透明で不適格な取引形態である「歩引き」取引の廃止を宣言するとともに、販売先、仕入先に対して「歩引き」取引廃止を要請する、との文書を採択しました。
これに対して、経済産業省の糟谷敏秀製造産業局長は、アベノミクスを一段と進展させるためにも取引の適正化は必要、との判断から最大限、協力することを約束しました。
宣言は、参加企業63社。川上から川下までを網羅した、日本の繊維ファッション産業のリーディング企業であることに加えて、その販売先、仕入先企業にも廃止を求めるものですから、廃止に向けてのカバー率は格段に向上します。全廃に向けて、大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。
この日は、公正取引委員会の担当者を招き「下請法・優越的地位の濫用規制について」の講演も行われました。最近の注意・勧告を受けた事例を中心に勉強したものですが、景気が足踏みしている中で、産業界全体で改めて法令順守が重要になっているようです。
(聖生清重)