FISPA便り「適正取引・付加価値向上と三方良し」

  リーディング・カンパニーの経営トップが出席し、議論して決めたことは責任を持って実行する。そんな稀有な会議である、繊維ファッションSCM推進協議会(馬場彰会長)の「経営トップ合同会議」が先週、東京・有明で開かれました。基本契約書の締結など取引ガイドラインの聴き取り調査が報告されましたが、これまでに廃止を決議している歩引きを含めて、おおむね改善しているようです。会議の理念が実行されている、と言えるでしょう。

 そうした中で、新たな課題が浮上しています。安倍政権の要請を受けて進めている「適正取引の推進」や「生産性・付加価値向上」につながる望ましい取引慣行を普及・定着させるもので、今年3月には日本繊維産業連盟と繊維ファッションSCM推進協議会が共同で「自主行動計画」を策定、繊維企業4600社に文書で要請したものです。同時に、経産省は糟谷製造産業局長名(当時)で同様の内容の協力依頼を通達しました。

 適正取引を推進し、生産性・付加価値向上を実現することで、中小企業の賃上げを行い、それによって個人消費を喚起しよう、との思惑が背景にありますが、実際、そうした循環が生まれれば、売り手も買い手も、働く人々もハッピーになるでしょう。悲願のデフレ脱却も実現するでしょう。この流れに「働き方改革」を組み合わせれば、産業全体としての競争力も強化されるでしょう。

 こうした好循環を実現するためには、越えなければならないハードルは高いのが現実でしょうが、それでも取り組むに値する課題だと思います。繊維業界でも「近江商人」をルーツとする企業で、有名な「三方良し」(売り手良し、買い手良し、世間良し)を掲げている企業は少なくありません。

 今回、経営トップ合同会議に参加した企業は、川上、川中、川下の62社で、いずれもそれぞれの業界のリーディング・カンパニーばかりです。リーディング・カンパニーには、各社ごとに経営理念があるでしょうが、自社だけが儲かれば良い、といった理念を掲げる企業は皆無でしょう。何らかの表現で「従業員や社会に対する貢献」を謳っているでしょう。

 今回の経営トップ合同会議を契機に、各社が自社の経営理念に立ち返って、「三方良し」を実現する取引を少しでも推進すれば、全体として「適正取引」、「生産性・付加価値向上」の実現に向けて一歩、前進するのではないでしょうか。 

                           
(聖生清重)