FISPA便り「東レ繊維、強さの秘密」
東レの11年3月期連結は、売上高は前期比13・2%増、経常利益は約10倍で過去最高を記録する好決算でしたが、特筆すべきは、祖業の繊維事業の業績が、売上高5841億円(前期比11・2%増)、営業利益324億円(98・8%増)と全社同様に2けた増収・大幅増益だったことです。 しかも、12年3月期の営業利益の予想は370億円です。
繊維素材産業は、欧米の合繊メーカーが軒並み撤収に追い込まれた例に見るように、先進国では斜陽産業と見なされ、日本でも同業他社は、国内生産からの撤退や生産設備の大幅削減を断行しています。18世紀に産業革命とともに英国で勃興・発展した繊維産業。その中心は、その後、新大陸の米国に、さらには太平洋を渡って日本へと移り、21世紀の現在は中国に転移しています。
先進国から新興国へと産業の中心が移る世界の繊維産業の歴史。にもかかわらず、東レの繊維事業は、世界の繊維産業史に反発するかのように敢然と利益を稼ぐ事業として存在し続けています。国家も産業も企業も「勃興→成長→成熟→衰退」の歩みを免れないと言われますが、少なくとも東レの繊維事業は、いまなお、成長、進化しているのですから大いに評価されるべきであり、そこから何かを学び取ることができるのではないでしょうか。
東レ繊維事業の強さの秘密。それは、時代の変化に適応するために不断の努力を積み重ねているところにあります。東南アジア・中国の生産工場が貴重な戦力になっていますし、国内ではユニクロとの提携に示されるように素材から縫製品までの一貫生産で、且つ、付加価値を確保する戦略を実践しています。「繊維は地球規模では成長産業」との認識に基づき、グローバル戦略を展開する一方、国内では縫製品まで手掛けることで付加価値産業に脱皮してきたのです。
東レは、「先進国における繊維産業は斜陽産業」との歴史感を塗り替えそうです。
いや、塗り替えてもらいたいと思っています。世界に誇れる素材メーカーの存在は、全国に数多く存在し、地域社会の形成に貢献している中小繊維メーカーに「明日の希望を実現する」ための自信と勇気を与えるチカラになると思うからです。
(聖生清重)