FISPA便り「出光佐三の気概」
繊維ファッションSCM推進協議会は、会員企業を対象に「知見を広げる」ことを目的に経営トップセミナーを開催しています。今年は、去る6日に東京・有明のTFTビルで「グローバリズムの奔流の中で―日本の活路はどこにある」のテーマで産経新聞社の雑誌「正論」の元編集長で、現在はフリーランスで活動している上島嘉郎氏を講師に行われました。
上島氏は冒頭、「経済活動はその国の永続のためにある」と述べるとともにドイツの鉄血宰相ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」との格言を引いて、歴史を正しく学ぶことの重要性を指摘しました。筆者は現役の記者の時代、多くの経営トップにインタビューしましたが、少なくないトップがこの格言を自らに言い聞かせていたことを思い出しました。
それはともかく、上島氏は大航海時代に当時の二大強国、ポルトガルとスペインが、世界を二分割するために1494年に結んだトルデシリャス条約の時代から話を始め、その後、日本の明治時代、太平洋戦争から戦後の歴史に話を進めました。
世界と日本の歴史を概観して説明しましたが、その全貌をここに再現することは不可能です。上島氏が強調したことは「歴史は、現在の価値観だけで見るのではなく、その時代の根本的な価値観を理解して読み説く」ことの重要性でした。例えば、当時の「コロンブスの新大陸発見は、ヨーロッパの視点」と言うことです。
90分間、淡々と話した上島氏の講演からあくまでも筆者の主観でそのポイントをあげると、ひとつは「明治以降、日本は世界で孤立していた」との指摘でした。ヨーロッパ列強による帝国主義が吹き荒れた時代、「有色人種の国で日本とともに立つ国はなかった」。もうひとつは太平洋戦争をはさんで、戦前は「協調外交に失敗し、戦後は協調外交に尽力した」との指摘ですが、なかでも「戦後の協調は他国がつくったルールに合わせるものだった」との視点が印象に残りました。
上島氏は、最後に、出光石油の創業者である出光佐三が1945年8月17日に全店員に訓示したという次の言葉を紹介しました。「原子爆弾によって戦争は消えたのであって、勝負は事実の上において決していない。ただ、日本が敗戦の形式を強要されたに過ぎないのである」。
これについて上島氏は「出光佐三の気概が大事だ」とまとめました。「グローバリズムの奔流の中での日本の活路」は「佐三の気概」にある、とのメッセージには学ぶものがあると思いました。
(聖生清重)