FISPA便り「勇気ある発言」

  6月は、多くの会社で株主総会が開かれました。最近はモノ言う株主の影響で、不祥事が起こったわけではない会社も含めて株主総会に関するニュースが増えているように感じます。総会と言えば、各業界団体にとってもこの時期は総会シーズンです。繊維ファッション業界も同様です。

  事業者団体で、いつも思い出すことがあります。東レ社長・会長で日本繊維産業連盟会長だった故・前田勝之助さんの名言です。「木は森がなければ育たない」。木は個々の会社、森は産業界と言うわけです。

  同業者が切磋琢磨し、利害が一致する課題には協力して取り組む。個々の会社では対応が難しい通商問題や税制での政府に対する要望がそうですし、一般社会に対するアピールも大事な事業者団体の役割でしょう。中小企業が多い繊維ファッション産業界では、事業者団体の役割は重要だと思います。

  そんなことを考えていた時、新聞報道で団体トップの勇気ある発言に接しました。繊維ニュースの去る6月25日付記事です。それによると、日本綿スフ織物工業連合会(綿工連)の平松誠治会長が、会員会社の多くの経営形態である受託製造業の取引慣行について「生機の長期保管料や筬(おさ)料のほか、小口運賃代などを工賃とは別に求めていくことが必要」との認識を示しました。

 この発言の背景にあるのは、人材確保難。少子高齢化も原因ですが、賃金が安いため働き手が集まりにくくなっている現状が十分に推察できます。受注があっても利益が確保できず、儲からない構造が長年続いているというわけです。

  20年か30年以上も前のことですが、筆者も現役の記者だった時、取材で訪ねたある染色メーカーの経営者からこうした苦衷を聞いたことがあります。工場内に積んであった原反を指さして「(発注会社が)引き取ってくれないのですよ」と言ったのです。染色工場が倉庫代わりに使われている実態を初めて知って暗澹とした気持になりました。こうした現状は、まだ、続いているのでしょうか。

  平松会長は、工賃についても「適正価格を主張する勇気を持つことが重要だ」と呼びかけているそうですが、まさにその通りだと思います。発注者と受注者の力関係から「低工賃でも受注せざるを得ない」状況が現実かも知れませんが、機業や染色メーカーが必要な人材を確保し、高感度・高品質な日本テキスタイルの再生産が可能になるよう、関連する業界挙げて取り組むことを期待したいと思います。

(聖生清重)