FISPA便り「無念なり。みやしん廃業」

 東京・八王子市の個性派テキスタイルメーカー、みやしん(宮本英治社長)廃業の記事を見て「エッ、みやしんが」との驚きと同時に日本のテキスタイルメーカーの進路の険しさを改めて思い知らされました。

 繊研新聞9月18日付によると、みやしんは10月末をめどに土地は売却、織機も有償で譲るなどで事業を収束する。

 廃業の引き金は「1メートル当たり2,000円もする宮本さんの生地は使えない」との長年の付き合いのあるアパレルメーカーの若い担当者からの電話による突然の通告だった。世界的に活躍する「このブランドで言われたら、これまでか」と宮本さんは苦渋の決断を下したようです。

 宮本さんは、異業種に務めた後、家業のみやしんを継ぎ、70年代後半に祖業の和装からファッション向けテキスタイルに転換、世界的なデザイナーブランドなどに創造的なテキスタイルを提供してきました。展示会などでお目にかかると、ビジネスの厳しさを口にしながらも、多重織りなど創意工夫した技(わざ)を駆使して創作したテキスタイルを熱く語ってくれました。

 一方では、全国の個性派テキスタイルメーカーに呼びかけ、国や自治体の補助金に依存しない合同展示会「テキスタイル・ネットワーク」(TN)を実現させ、軌道に乗せました。さらには、文化ファッション大学院大学教授として後進の指導にも努めています。

 日本の中小テキスタイルメーカーが生きる道のひとつは、職人的技術と繊細な感性から生まれる付加価値の高いテキスタイルを開発、販売することでしょう。価格競争では中国など海外勢に、高機能テキスタイルでは大手素材メーカーに太刀打ちできないからです。みやしんは、その生き方を実践する代表的な機業のひとつでした。

 アパレル市場で、高級ブランドとファストファッションの間に存在する中間ゾーンに生きる日本のアパレル企業やデザイナーブランドにとって、競争優位を目指して自社ブランドを差別化するためには、本来、創造的なテキスタイルが必須だと思われます。しかし、現実は「付加価値は高いが、価格も高い」テキスタイルは敬遠されてしまうのでしょうか。         

(聖生清重)