FISPA便り「墨田と鷺森アグリの明日」

 伝統と革新、そして未来へ。そんな期待をいだかせる展示会が先日、東京・墨田区で開かれました。国際ファションセンターが主催する「アクト21」展。16回目の今回は、新進気鋭のデザイナー、鷺森アグリさんと墨田区のファクトリーがコラボレーションして生まれた新商品を披露しましたが、伝統的な職人技と鷺森さんの繊細な美意識が融合して美しく品位もあり見応えがありました。

 墨田区には、江戸時代から続くものづくりの心と技が生き続けています。「江戸切子」、「江戸小紋」、「べっ甲工芸」などですが、ニット産業も集積して産地を形成しています。そうしたファクトリーと鷺森さんのコラボ商品は、例えば、神輿の飾りをつくる㈲塩澤製作所の手によるクラッチバッグや指輪などのアクセサリー、エナメル加工が得意な㈱駒屋の長財布の柄は立体的に浮かび上がって、どちらも独自の存在感を発揮していました。

 アパレルでは、㈱ピーコンポのカットソーのミセスウエアは、鷺森さんのアイコンである蝶のプリントが施されて実にエレガントでした。今治のタオル地を使用し、鷺森さんのデザインをプリントした大石メリヤス㈱のルームウエアも幻想的な雰囲気を醸し出していました。

 同展を最初から指導しているオフィスナガモリの永森達昌さんは「トータルライフスタイルに挑戦した」と話していましたが、アールヌーボーを現代化したような模様のモノトーンプリントに囲まれ、食器を並べたテーブルのダイニングに摸した展示会場の商品は、今までにないライフスタイルを表現したように思えました。

 いささか、ほめすぎかも知れませんし、実際、商売はこれからです。しかし、中小ファクトリーがデザイン性に優れた新商品を開発した経験は、新しい販路を開拓する上で今後に生きると思います。

 そして、鷺森さんです。すでにパリで活動していますが、江戸の伝統技や職人達と交流したことは、日本の繊細な美意識を秘めたコレクションが持ち味なだけに、筆者がかねて熱望している「日本の美をグローバルな世界に普遍化した作品、つまり世界で支持される日本ファッション」の実現を強く予感させてくれました。                     

                                                                     (聖生清重)