FISPA便り「一村産業、V字回復後の新戦略」
去る9月5日付の「FISPA便り」がきっかけで一村産業社長の石井銀二郎さんと一夜、歓談をさせていただきました。一村産業のV字回復と今後の戦略には、目をみはらせるものがありました。
石井さんが社長に就任したのは2007年。09年3月期は売上高230億円、経常利益1億3300万円、純損失2億2200万円でしたが、12年3月期は売上高こそ170億円に減少しましたが、経常利益は2億5700万円、純利益は7300万円の黒字とV字回復を果たしました。リーマンショック、超円高を克服してのことですから大健闘です。
今、石井さんは「V字回復したが、このままでは√(ルート)になってしまう」と檄を飛ばしています。が、その檄には具体的かつ周到な2つの戦略があります。
1つは、環境配慮型分解性ポリエステル繊維「エコフェイス」の拡大です。ポリエステル65%・コットン35%のポリエステル・綿混素材は、世界の繊維史における最高傑作です。しかし、残念なことに使用後はリサイクル、焼却、土中への埋め立てのいずれも環境への負荷がまぬがれません。
この課題をクリアした「エコフェイス」は、当面、ユニフォームで事業化するそうです。ファスナー、縫い糸なども「エコフェイス」を使用し、使用後の製品は回収するビジネスモデルで事業拡大を図る方針です。
もう1つは、「熱可塑性CF(炭素繊維)-SS(スタンパブルシート)」です。航空機に使われている炭素繊維複合材料とは別に、一村産業が「いしかわ炭素繊維クラスター」で取り組む「熱可塑性CF-SS」は、多様な用途に需要が見込まれます。北陸産地の分繊、開繊などの技術を駆使して自動車、電子機器、IT機器分野などに売り込む方針です。これには石川県も今後5年間で6億5000万円の開発費の支援を決めたそうです。
衣料分野での「環境素材」、産業分野での「CF-SS」。産地企業のみならず、日本の繊維産業の進路だと言えるでしょう。一村産業は、そのフロントランナーを目指しています。
(聖生清重)