FISPA便り「夢の続き」

 ボーイング787の機体に使われている炭素繊維複合材料が東レの製品であることはご存知でしょう。アクリル長繊維を高温で焼いてつくる先端材料ですが、その開発には、開発研究者の悪戦苦闘の物語があります。

今でこそ、東レを代表する製品の炭素繊維ですが、1970年に炭素繊維を開発する「CROW(クロー)プロジェクト」が発足したものの、開発は苦労の連続でした。世界を代表する化学メーカーのデュポンをはじめとする欧米の大手化学メーカーが、軒並み開発を断念した事実が、その困難さを証明しています。

「クロープロジェクト」は、カラスの濡れ羽色の漆黒の黒にちなんで命名されたものです。クローは英語はでカラスです。

「黒い飛行機を飛ばそう」。研究開発者の合言葉です。黒い炭素繊維でつくった航空機をつくりたい。開発者の夢は、その後、炭素繊維複合材料が航空機の構造材に使われることで実現しました。

炭素繊維は、自動車にも使われています。現状は高級車だけですが、いずれは一般の自動車にも使われると見られています。「軽く、強い」炭素繊維は、化石燃料の使用削減にもつながります。環境の世紀である21世紀にふさわしい先端材料であり、自動車なのです。そんな「エコカー」を実現しようと燃えている人がいます。一村産業の石井銀二郎さんです。

金沢市に生まれた一村産業。絶頂と蹉跌、復活の波乱の社史を東レの支援で生き抜いてきた会社です。東レ常務から5年前に一村産業社長に転じた石井さんは「炭素繊維製の電気自動車を古都金沢の細い道に走らせたい。金沢伝統の金箔で外観を飾り、内装は高級車に使われている人工皮革『アルカンターラ』で最高の空間を提供したい」と夢の実現に全力をあげています。

「クロープロジェクト」発足当時、同プロジェクトの「クロー」は、「苦労」と揶揄されましたが、開発者の夢は実現しました。石井さんの「夢の続き」も実現することを願っています。一村産業にとどまらず、北陸産地全体の夢でもあるからなおさらです。

(聖生 清重)