FISPA便り「10年後のあるべき姿」

  日本繊維産業連盟(鎌原正直会長)は、「2030年にあるべき繊維業界への提言」をとりまとめるため、9月から検討を開始することになりました。年内にテーマの大枠を決めたい考えですが、いかなる姿を描き、その姿を実現するための対応策を提言できるか、デジタル革命とグローバル化の大きな波を乗り切り、新しい産業として、再び、世界に冠たる地歩を築くきっかけになることを期待したいと思います。

 繊維産業の在り方については、これまで時代の変化に合わせて、いくつものビジョンがとりまとめられ、産業界、個別企業の指針の役割を果たしてきました。従来の「繊維ビジョン」は、経済産業省が中心になってまとめてきましたが、検討の場には、繊維業界の各段階の代表や学識経験者も参加し、真剣な議論をたたかわせて策定してきました。

 過去の繊維ビジョンを振り返ってみると、世界の中における日本の繊維産業の地位、産業構造や生活者の嗜好の変化など、時代の変遷に対応して新たな方向が打ち出されてきたことが読み取れます。

 1973年のビジョンでは、「知識集約化」がキーワードでした。1976年のビジョンでは「アパレル産業の振興」が盛り込まれました。70年代に入って、アパレル産業は成長期に入り、そのアパレル産業を振興することが、それまでの「繊維産業の中核」だった原糸、原綿、テキスタイルの繊維素材産業にとっても重要だとの認識からでした。

 1983年の繊維ビジョンでは「先進国型産業」が目指すべき方向でした。アジア諸国などの追い上げで、価格競争力が低下するなかで、付加価値を重視する産業への変身を目指したものです。さらに1988年のビジョンでは「生活文化提案型産業への新たな展開」が打ち出されました。今日、アパレル製品だけでなく、服飾雑貨やインテリア・リビングなどを揃えた「ライフスタイル型」ショップが人気ですが、その先取りと言えそうです。

 90年代に入ると、1993年ビジョンは「市場創造とフロンティア拡大」、1998年ビジョンは「4つの課題と5つの改革」で市場主義時代への対応、ニューフロンティアなどが提言されました。2007年ビジョン「繊維産業の展望と課題」では、「先端素材からファッションまで」、「技術と感性で世界に通用する生活創造産業」が示されました。

 主な繊維ビジョンを概観すると、日本の繊維産業は、時代の変化に対応して、新たな姿を打ち出し、それに挑戦してきたことが伺えると思います。

 こうした歩みの先にあるものは何なのでしょう。現在の世界は、IT産業が全盛で、その一方では不確実性が増しています。一口に「繊維」と言っても、衣料用と先端素材では様相が異なります。そんな難しさを抱えながら、いかなる「姿」を打ち出すか、大いに注目したいと思います。

     (聖生清重)