FISPA便り「商社マンの一言とアパレルの復権」

 百貨店を主販路とする百貨店アパレル企業の苦境が相次いで報じられています。アパレルトップのオンワードホールディングスが先月上旬、国内外の約600店舗を閉鎖すると発表したのに続いて、下旬には三陽商会が業績不振でトップ交代を発表しました。三陽商会は大黒柱だった「バーバリー」に替わるブランドの構築に苦しんでいることがトップ交代の主因ですが、根底には百貨店販路の不振という構造問題が横たわっています。

 日本のアパレル産業は、1970年代に急成長しました。「アパレル」という言葉そのものが定着したのもそのころのことです。戦後の日本経済をけん引した重厚長大産業の次は、人々の感性に訴える、アパレル産業などのファッション産業が成長産業だと目されています。しかし、バブル崩壊以降は、SC(ショッピングセンター)、セレクトショップ、SPAアパレルチェーン、ファストファッションに加えてEC市場が急成長しています。そうした潮流の中で地方を中心に百貨店の地場沈下が著しく、これがアパレル企業の低迷を招いていることはご承知の通りでしょう。

 アパレル企業にとっての「勝ちパターン」が変革を迫られている中で、各社が期待を寄せているのがEコマースの拡大です。世はデジタル革命の真っただ中で、消費者の購買行動の中にネット通販は確実に組み込まれています。Eコマースの拡大の方向は全くその通りでしょう。しかし、Eコマース市場は、成長市場だけに、先発企業、後発企業が入り乱れて覇権を争う激烈な競争市場です。そうした中でアパレル企業がどう独自性を発揮するのか、まずは、行方を注視したいと思います。

 そんなことを考えていた時、かつて、ある商社マンがつぶやいた一言がよみがえりました。商社がメーカー機能を持つことで、アパレルOEM生産ビジネスモデルを確立し、成功に導いた、その商社マンにこう質問したことがあります。「世界中から素材を調達し、最適な縫製工場を見つける力があり、物流から検品までできる商社が、企画・デザインのプロと契約すれば、OEMという、言わば下請けではなく、商社がアパレル企業そのものになれるのではないですか」。

 くだんの商社マンは、その問いに「企画・デザイン,MD(適時、デザイン、異なる色柄、サイズの商品を店頭に並べること)のノウハウは商社にはない」。10年ほど前のことですが、今日、アパレル企業の苦境を見て、この言葉がまだ、生きているのではないか、と思いました。

 アパレル企業の苦境打開、復権への道は、くだんの商社マンの言葉、言い換えれば「アパレル企業ならではの強み」を発揮するところにあり、Eコマースの拡大もそのノウハウがあればこそと言うべきではないでしょうか。                                          

(聖生清重)