FISPA便り「BBの破綻と生活様式の変化」

 「ブルックス ブラザーズ」(「BB」)が去る8日、米連邦破産法第11条(日本の民事再生法に相当)を申請して、経営破綻したニュースは、ファッション産業のひとつの“法則”の終わりと人々の生活様式が確実に変化したことを象徴しているように思います。時代は、間違いなく変わったのだ、と。

 高級メンズスーツで知られる「BB」の創業は1818年。2世紀を超える時間を生きてきました。創業時、世界史を見ると「ウィーン会議」が開かれていました。日本では、イギリス、オランダ、ロシア船が相次いで来航した時代です。長い時を刻んで、ブランドの知名度も高く、名門と呼べる存在です。

 「BB」は、リンカーン、ケネディ大統領も愛用したことで知られています。米国のエスタブリッシュメント御用達ブランドとも言えるでしょう。日本ではダイドーリミテッドが1979年にBB社と合弁でブルックス ブラザーズジャパン(BBJ)を設立して展開しています。(今回の米国での連邦破産法申請でも日本でのビジネスは継続すると伝えられています)

 「BB」ブランドで思い出すことがあります。同ブランドやイギリスの「ダックス」などのハウスタータン知られるブランドは「トラディショナル」と呼ばれ、かつてはファッションの世界で一つの確かな存在感を発揮していました。「伝統」、「高品質」、「職人技」、そして適度の革新性。そうしたイメージで、多くの人々に愛され、だからこそ、一過性のトレンドに流されず、長い時間を生き続ける存在だと思われてきました。

 「トラディショナル」は、引き継がれしものと言ってもよいでしょう。ファッションのひとつのジャンルとして、「トラディショナル」は、まさしく引き継がれてゆく、ように思われていました。少なくとも筆者はそう信じていましたし、少なからない業界人もそう思っていたのではないでしょうか。

 しかし、「トラディショナル」、略して「トラッド」の言葉はファッション業界から失われて久しくなってしまいました。背景には、スーツからカジュアルへ、というファッションのカジュアル化という大波があることは間違いありません。もはや、夏のノーネクタイに代表されるクールビズは完全に定着しています。IT産業の従事者は総じてカジュアルウエアを好んでいます。

 加えて、新型コロナウイルス感染症の猛威です。「BB」の経営破綻も直接的な原因はコロナによる売り上げ不振だと報じられています。

 冒頭、ファッション産業のひとつの法則と書いたのは、「トラディショナル」ブランドは永続するという意味ですが、その“法則”が破られてしまいました。コロナが決定的な打撃を与えたとしてもカジュアル化という生活様式の変化には抗えなかったということなのでしょう。 

          (聖生清重)